書店に本を置きたいが、全国の取次を通す仕組みは大がかりに感じる。付き合いのある書店が数店舗あるので、そこには直接卸せないか。企業出版のご相談で、こうした声を聞くことがあります。
結論から言うと、取次を介さずに書店やイベント主催者と直接取引する方法はあります。 本記事では、取次経由の流通とは別の選択肢である「直接取引」の仕組みだけを扱います。取次口座を自社で持つ方法については自社で取次口座を開くには|必要な条件と出版代行との使い分けで扱っています。
この記事で分かること:
- 直接取引の仕組みと、取次経由との違い
- 買い切りと委託という2つの取引形態
- 直接取引に向く場面と、取次を使ったほうがよい場面
直接取引とは何か
直接取引とは、出版社や著者が、取次を介さずに書店やイベント主催者と直接契約を結んで本を卸す方法です。取次を挟まない分、条件は書店ごとに個別に交渉して決めます。
| 取次経由の流通 | 直接取引 | |
|---|---|---|
| 契約の相手 | 取次1社とまとめて契約 | 書店・イベント主催者ごとに個別契約 |
| 配本先の広さ | 取次の取引がある書店に配本される | 契約した書店・場所に限られる |
| 条件の決め方 | 取次の基準に従う | 相手と個別に交渉する |
| 代金回収 | 取次を通じてまとめて精算されることが多い | 取引先ごとに個別に請求・回収する |
| 在庫・発送 | 取次・書店側の仕組みに乗る | 自社で在庫を持ち、発送する必要がある |
取次を介する最大のメリットは「まとめて」対応できる点です。 直接取引はこの「まとめて」の部分を自社で肩代わりする代わりに、条件を書店ごとに柔軟に決められる方法だと考えてください。
買い切りと委託
直接取引を結ぶ際、書店との間で取り決める代表的な形が「買い切り」と「委託」です。
| 形態 | 仕組み | 特徴 |
|---|---|---|
| 買い切り | 書店が本を買い取る | 返品が発生しない。書店にとっては仕入れのリスクがある分、条件面で交渉の余地が生まれやすい |
| 委託 | 書店が本を預かって販売する | 売れ残った分は返品できる。書店にとっては仕入れやすいが、返品対応の手間が出版社側に発生する |
どちらの形にするかは、書店ごとの交渉次第です。 掛率(書店の取り分の割合)や支払いのタイミング、返品条件といった具体的な数字は、書店や事業者によって大きく異なります。本記事ではこれらの数値を挙げません。契約前に必ず個別の見積書・契約書で確認してください。
イベント・展示会での直接販売
書店を介さず、展示会やセミナー会場でその場で本を販売する場合も、直接取引の一形態です。この場合は書店との取り決めは不要になりますが、代わりに会場での販売許可、レジや決済手段の用意、当日の在庫の持ち込み・持ち帰りの手配が必要になります。委託のような返品の概念はなく、その場で売れた分・売れ残った分がそのまま結果になる、買い切りに近い性格の取引だと考えてください。
直接取引で自社が担うことになる業務
取次を使わない分、次の業務は自社で担う必要があります。
- 発送・在庫管理:書店やイベント会場へ必要な部数を届ける手配
- 代金の請求・回収:取引先ごとに個別に請求し、入金を確認する
- 返品対応(委託の場合):戻ってきた本の受け取りと再出荷の判断
- 書店開拓・条件交渉:取引したい書店を探し、条件を個別に決める
契約する書店の数が増えるほど、これらの業務の負担も比例して増えます。 数店舗との取引であれば管理可能でも、数十店舗を超えると、取次を使ったほうが管理コストは下がることが多くなります。
直接取引に向く場面、向かない場面
| 場面 | 向き・不向き |
|---|---|
| 付き合いのある独立系書店に数店舗置きたい | 直接取引が現実的 |
| 展示会・イベント会場でその場で販売したい | 直接取引(買い切り相当の現場販売)が向く |
| 著者のネットワークがある書店が複数ある | 直接取引を検討する価値がある |
| 全国の書店に幅広く置きたい | 取次経由のほうが管理コストが低い |
| 発送・請求管理に割ける人手がない | 取次経由、または流通を含む出版代行の利用を検討する |
判断の目安は、契約する書店の数と、自社で発送・請求の手間を負えるかどうかです。 数店舗程度の限定的な取引であれば直接取引は十分に成立しますが、店舗数が増えるほど自社の管理負荷も増える点は見込んでおいてください。
自社ECサイトでの直接販売も同じ考え方
書店を介さず、自社のWebサイトから直接読者へ本を販売する方法も、取次を通さないという意味では直接取引と同じ考え方に含まれます。この場合は書店との契約は不要になりますが、代わりに決済手段の用意、注文ごとの発送、在庫の把握を自社で担うことになります。Amazon KDPのように注文のたびに印刷・発送される仕組みを使うか、あらかじめ刷った在庫から自社発送するかで、必要な体制が変わります。紙の在庫を持たない選択肢については会社の本を紙でも出す|ペーパーバックと少部数印刷の選び方で扱っています。
取次経由と直接取引を組み合わせる
直接取引と取次経由の流通は、どちらか一方しか選べないわけではありません。 全国的な流通は取次経由のプランに任せつつ、付き合いのある地元書店やイベント会場だけは直接取引で卸す、という組み合わせ方もできます。この場合、同じ本を複数の経路で扱うことになるため、どの経路で何冊出ているかを把握できる管理方法をあらかじめ決めておく必要があります。経路が増えるほど在庫と冊数の管理は複雑になる点を踏まえたうえで検討してください。どの経路にどれだけ配分するかを決める前に、まず全体で何冊刷るかを固定しておくと、経路間での在庫の取り合いを防げます。 どの経路にも属さない予備在庫を少数確保しておくと、想定より早く売れた経路への急な追加出荷にも対応しやすくなります。逆に予備在庫を持たずに各経路へ配分してしまうと、追加が必要になったときに増刷までの間、機会を逃すことになります。
失敗しやすいパターン
- 返品条件を曖昧にしたまま出荷してしまう。 買い切りか委託かを口頭合意だけで進め、後から「返品できると思っていた」という認識違いが起きる。
- 書店数が増えるほど請求業務に追われ、営業活動に手が回らなくなる。 直接取引は書店ごとに個別対応が必要なため、件数が増えると管理コストが比例して増えます。
- 在庫の置き場所を決めずに直接取引を始めてしまう。 発送のたびに在庫の所在を確認する手間が発生します。
当社の対応範囲
当社のAI書籍出版代行は**80万円〜(税抜・表紙デザインを含む)**で、企画・執筆・編集・デザイン、Amazon KDPへの入稿代行、少部数の印刷・製本までを行います。
書店との直接取引の条件交渉、発送・在庫管理、代金の請求・回収は対応範囲に含まれません。 直接取引を希望される場合は、御社側でこれらの体制を整えていただく前提になります。少部数の印刷はKDPのペーパーバックや別途の印刷でご相談いただけます。詳しくは会社の本を紙でも出す|ペーパーバックと少部数印刷の選び方をご覧ください。
まとめ
- 直接取引は、取次を介さず書店やイベント主催者と個別に契約する流通方法です。
- 取引の形は主に「買い切り」(返品なし)と「委託」(返品あり)の2つで、どちらにするかは書店ごとの交渉で決まります。
- 掛率・支払い条件・返品条件は事業者ごとに異なるため、契約前に個別の見積書・契約書で確認してください。
- 直接取引では発送・在庫管理・請求回収を自社で担う必要があり、書店数が増えるほど負担も増えます。
- 数店舗程度の限定的な取引には向きますが、全国規模で置きたい場合は取次経由のほうが管理コストが低くなります。
流通の選び方は、置きたい書店の数、イベントでの手渡しの有無、自社で担える業務量から逆算すると整理しやすくなります。