「本を出したい。でも何を書けばいいか分からない」。企業出版のご相談で最も多いのがこれです。
テーマから考え始めると、たいてい行き詰まります。決める順序が逆だからです。本記事では、目的から逆算してテーマを固める手順を説明します。
この記事で分かること:
- テーマを決める順序と、1枚にまとめる企画シート
- 社内にある「書ける材料」の見つけ方
- 書いてはいけない内容の線引き
決める順序
次の順で決めます。テーマは4番目です。
- 目的 — この本で何を起こしたいか
- 読者 — 誰に読ませたいか
- 読後の変化 — 読み終えた読者に、何が変わっていてほしいか
- テーマ — そのために何を書くか
- 章立て — どういう順で書くか
目的が「商談で渡して信頼してもらう」なのか「採用候補者に会社を理解してもらう」なのかで、読者も、書くべき内容もまったく変わります。
| 目的 | 読者 | 読後の変化 | テーマの方向 |
|---|---|---|---|
| 商談を進めたい | 検討段階の担当者 | 判断の基準が分かる | 選び方・失敗の型 |
| 採用につなげたい | 応募を迷っている候補者 | 働く姿が想像できる | 仕事の中身・意思決定 |
| 業界での立ち位置を示したい | 同業・取材者 | 独自の視点を知る | 現場からの提言 |
| 経営者の考えを残したい | 社員・取引先 | 判断の背景が分かる | 転機と決断 |
目的を1つに絞ってください。 商談にも採用にも業界向けにも使える本を目指すと、どの読者にも刺さらない本になります。
読者は1人に決める
「中小企業の経営者」では広すぎます。次のくらいまで絞ります。
従業員30〜100名の製造業で、自社の技術を言語化できておらず、若手採用に苦戦している二代目社長
ここまで絞ると、使う言葉も、前提としてよい知識の範囲も決まります。絞ると読者が減るのではなく、絞った読者には確実に届きます。
絞り込みの材料は社内にあります。営業が最近よく会っている相手、問い合わせフォームに書かれている悩み、面接で候補者から出る質問。それが実在の読者像です。
社内にある「書ける材料」を棚卸しする
新しく考える必要はありません。次を集めてください。
- 商談で毎回説明していること — 何度も説明するということは、世の中に情報が足りていないということです
- よく聞かれる質問 — そのまま章のタイトルになります
- 失敗から学んだ判断基準 — 成功事例より読まれます
- 数字で言えること — 自社で測っている実数(社外に出せる範囲で)
- 現場の写真・図・帳票 — 図版の素材になります
- 社内の文書 — 提案書、社内報、研修資料、議事録
これがAIに渡す材料になります。 材料の質が本の質を決めます。生成AIは、渡していない情報を持っていません。一般論だけで書かれた本になるかどうかは、この棚卸しで決まります。
社外に出せるかどうかは、材料を集めた後に選別してください。先に自主規制すると、材料そのものが集まりません。
企画を1枚にまとめる
次の項目が埋まれば、企画は固まっています。埋まらない欄があれば、そこが未決です。
| 項目 | 記入内容 |
|---|---|
| 目的 | この本で起こしたいこと(1つ) |
| 読者 | 具体的な1人の像 |
| 読後の変化 | 読者が得るもの、取る行動 |
| 一言でいうと | 30字以内でこの本の主張 |
| 読者が得をする理由 | なぜ他の本ではなくこれを読むのか |
| 自社にしかない材料 | 数字・経験・現場 |
| 章立て | 8〜12章(各章1つの問い) |
| 分量 | 目安の文字数 |
| 形式 | 電子のみ/紙のみ/両方 |
| 使い方 | 誰がどこで渡すか |
「一言でいうと」が書けない企画は、まだ固まっていません。 ここが曖昧なまま執筆に入ると、全体を書き直すことになります。
分量の目安は、当社の制作実務では次のように置いています(業界標準ではなく、目的から逆算した目安です)。
| 形式・用途 | 文字数の目安 |
|---|---|
| Kindleで読み切ってもらう | 3〜5万字 |
| 紙で商談に渡す | 6〜9万字 |
| 社史・正史として記録する | 10万字超 |
章立ての作り方
1章=1つの問いにします。章タイトルを疑問文で書いてみて、答えが1つに定まらなければ、その章は分けるべきです。
目次が自社の事業部構成や沿革の順で並んでいたら、会社案内になっているサインです。読者が抱える問いの順に並べ替えてください。
章の並べ方は、読者の思考の順にします。
- 読者が困っていることの言語化(「そう、それが知りたかった」と思わせる)
- なぜそうなるのかの構造説明
- どう判断すればよいかの基準
- 実際にどう進めるかの手順
- うまくいかないときの対処
書いてはいけないこと
企画段階で線引きしておくと、後戻りが減ります。
| 内容 | 扱い |
|---|---|
| 取引先名・顧客名 | 事前の許諾が必要。守秘義務契約の確認を |
| 従業員の実名・写真 | 本人の同意が必要。退職者は特に注意 |
| 他社の資料・図表 | 出典明記だけでは足りない。転載は許諾が必要 |
| 新聞・雑誌記事 | 記事全体の掲載は通常「引用」の範囲を超える |
| 根拠のない数値・順位 | 出典と算出条件を示せないものは書かない |
| 効果の保証 | 「必ず〜できる」は書かない |
他人の著作物を許諾なく使える「引用」には条件があります。公表された著作物であること、引用の必然性があり引用部分が明確に区別されていること、自分の文章が主で引用が従という関係が保たれていること、目的上正当な範囲にとどまること。記事や図表をまるごと載せる行為は、通常この範囲を超えます。
Amazon KDPで出版する場合、AIで生成した文章・画像・翻訳を含むときは、出版時にその旨を申告する必要があります。 人が書いたものをAIで改善した「AI支援」は申告の対象外とされています。当社が制作した原稿についても、どちらに当たるかをご説明したうえで手続きします。
企画が弱いときのサイン
- 目次が自社の事業部構成になっている
- 「弊社は」で始まる段落が多い
- 章の中身を説明しようとすると、話が毎回変わる
- 「誰に」と聞かれて「経営者全般」と答えてしまう
- 自社でなくても書ける内容しかない
ひとつでも当てはまるなら、テーマではなく目的と読者に戻ってください。
まとめ
- テーマから考えないでください。目的 → 読者 → 読後の変化 → テーマ → 章立ての順です。
- 読者は1人に絞ると、言葉も前提も決まります。
- 材料は社内にあります。商談で毎回説明していること、よく聞かれる質問、失敗から学んだ基準。
- 「一言でいうと」が30字で書けたら、企画は固まっています。
- 取引先名・実名・他社資料・新聞記事は、企画段階で扱いを決めておいてください。
企画が白紙の段階からご相談いただけます。ヒアリングをもとに、目的・読者・章立てを整理した企画案をご提示します。
参考情報
- Amazon KDP コンテンツガイドライン(2026-09-19確認)— 著作権・商標・プライバシー・パブリシティ権を侵害する内容は認められない。AIで生成した文章・画像・翻訳は出版時に申告が必要で、人が作成した内容をAIで改善した「AI支援」は申告の対象外。
- 文化庁 著作権テキスト(令和6年度版)(2026-09-17確認)— 引用として許諾なく利用できる場合の要件(公表された著作物であること、公正な慣行に合致すること、引用の目的上正当な範囲内であること、主従関係が明確で分量が相応であること)。
※本記事は一般的な説明であり、個別の事案についての法的助言ではありません。判断に迷う場合は権利者への確認、または専門家にご相談ください。