海外の子会社の立ち上げや、海外取引先との協業を一冊の中で紹介したい。企業出版のご相談では、こうした「海外が登場する章」を作りたいという要望が珍しくありません。

ただし国内だけで完結する原稿と違い、海外拠点や海外の取引先が登場する内容には、法域が複数にまたがることで生じる注意点があります。 本記事では、この論点だけを扱います。個々の国の法律の中身までは踏み込みません。国や地域ごとの規制は必ず現地の法務部門・現地弁護士に確認してください。

この記事で分かること:

  • 海外拠点と海外取引先で、確認すべき相手がどう違うか
  • 法域が複数になることで新たに生じる論点の種類
  • 同意取得・翻訳確認・数値表記でつまずきやすい箇所

海外拠点と海外取引先では、確認すべき相手が違う

まず区別しておきたいのは、「自社の海外拠点」と「社外の海外取引先」では、承認を得るべき相手も手順も異なるという点です。

登場するもの 確認すべき相手 起きやすい失敗
海外拠点(子会社・支店) 現地代表者に加え、本社の海外事業部門・法務部門 現地代表者の口頭了承だけで進め、本社側の最終確認で差し戻しになる
海外の取引先(社外) 先方の広報窓口。個人が特定される場合は本人 日本側の担当者どうしの合意だけで進め、先方の本国の承認フローを踏んでいなかった
海外拠点・取引先の従業員個人 本人。写真や発言が特定個人に紐づく場合は必須 「会社として了承済み」を理由に、本人への確認を省略してしまう

海外拠点は「身内だから確認は軽くてよい」と思われがちですが、実際には本社と現地の間でもう一段階の承認が必要になる分、国内だけの案件より確認先が増えます。 取引先の場合は、先方の会社としての意思決定と、登場する本人の同意の両方が必要になる点を分けて考えてください。どちらのケースでも、誰が最終的な「掲載可否」の判断者なのかを、取材を始める前の時点で決めておくことが、後戻りを防ぐ一番の対策になります。

法域が複数になることで生じる論点

国内だけで完結する原稿と比べて、海外が登場すると次のような論点が新たに発生します。

論点 国内だけの場合 海外が登場する場合
個人の同意・プライバシー 国内の基準で確認すればよい 現地の基準も別途確認が必要になる場合がある
契約書の準拠法 日本法が前提になりやすい 取引先との契約が現地法準拠のことがあり、守秘義務条項の範囲を再確認する必要がある
名誉毀損・表現の受け止め方 国内の商慣習を前提にできる 宗教・政治・地域性に関わる話題への受け止め方が国内と異なることがある
商号・ロゴの表示 自社の表記ルールで統一できる 現地法人の正式な商号表記や、取引先のロゴ使用許諾を別途確認する必要がある

この記事で扱うのは「こうした論点が生じる」という事実と、どこを確認すべきかまでです。 各論点の法律上の結論は国・地域によって異なるため、本記事では断定しません。現地法務・現地弁護士への確認事項として持ち帰ってください。

取引先との契約書に守秘義務条項がないか

海外取引先とのやり取りをエピソードとして紹介する場合、見落とされがちなのが既存の契約書との整合です。業務提携契約や秘密保持契約(NDA)を交わしている相手であれば、そこに守秘義務の範囲が定められています。日本国内の取引先と同じ感覚で「対外的に問題なさそうな範囲だから」と判断せず、該当の契約書を担当部門と一緒に確認したうえで、書籍に載せてよい範囲を洗い出す手順を踏んでください。契約が現地法準拠になっている場合、守秘義務の解釈が日本法とは異なる可能性がある点も、確認が必要な理由の一つです。

同意取得と承認フローの組み立て方

海外が登場する章では、承認フローを先に決めてから取材に入ると手戻りが少なくなります。

  1. 登場させたい人・組織を洗い出す(海外拠点の代表者・従業員、取引先の担当者など)
  2. 確認ルートを決める(本人 → 現地の広報・法務 → 本社、の順で誰が最終承認者かを明確にする)
  3. 取材・原稿化(発言内容は本人の言語のまま記録しておく)
  4. 翻訳後の文面を本人に見せる(意味のずれがないかの最終確認)
  5. 本社側の最終承認(海外拠点・取引先の承認を得たうえで、本社の広報・法務が最終確認する)

つまずきやすいのは3と4の間です。 通訳や翻訳者を介して聞いた内容をそのまま原稿化し、翻訳後の文面を本人に見せずに校了へ進めてしまうケースが目立ちます。本人の母語での発言と、日本語版の本文とでニュアンスが変わっていないか、翻訳後の文面で確認を取る一手間を工程に組み込んでください。

表記・数値でつまずきやすい箇所

海外拠点の実績を数字で紹介する章では、次の点を事前に決めておかないと、印刷直前に表記の作り直しが発生しやすくなります。

  • 通貨:現地通貨のまま示すか、日本円換算で示すか
  • 換算時点:換算する為替レートをいつの時点のものにするか
  • 集計期間:現地の会計年度と日本側の会計年度が一致しない場合、どちらの期間で切るか
  • 単位:現地の慣習的な単位(面積・重量など)を日本の単位に置き換えるか

これらは法律の論点ではありませんが、現地拠点の最終確認を通すうえで実務上つまずきやすい箇所です。数字を含む章は、現地担当者に一度、単位と時点を明記した状態で確認してもらってください。**現地の資料をそのまま翻訳して転記しただけの数字は、集計方法や対象期間が本社側の資料と揃っていないことがあり、突き合わせをせずに掲載すると本社と現地とで違う数字が本の中に混在してしまいます。**数字の出典明記と再確認のタイミングについては本文中の数字・データの出典明記と印刷前の更新タイミングの決め方とはにまとめています。

現地拠点の名称表記のずれにも注意する

海外拠点の名称は、登記上の正式名称と、社内やWebサイトで普段使っている英語表記が一致しないことがあります。 たとえば法人格を示す部分(Co., Ltd. や GmbH、Pte. Ltd. など)を省略した略称が社内で定着していると、本の中でどちらを使うべきか迷う場面が出てきます。現地拠点が登場する章では、原稿を書き始める前に「本に載せる正式な名称」を現地拠点に確認し、その表記を全章で統一しておいてください。途中で表記が変わると、現地側の最終承認の段階で差し戻しの原因になります。

当社が確認できる範囲、御社にお願いする範囲

当社のAI書籍出版代行は**80万円〜(税抜・表紙デザインを含む)**で、原稿の日本語表現や、国内の著作権・引用のルールに沿っているかどうかの確認は含まれます。事業者によって対応範囲や版権の扱いは異なるため、比較の視点は企業出版サービスの比較と選び方|対応範囲・費用・権利を確認するもあわせてご覧ください。

一方で、海外拠点や海外取引先が所在する国・地域の法律の調査、現地での同意取得の代行、現地の広報・法務部門とのやり取りは、当社の対応範囲には含まれません。 これらは御社側で、現地の担当部門または現地弁護士を通じて進めていただく前提になります。海外が登場する章がある場合は、企画の早い段階でその旨をお伝えください。想定される承認フローを踏まえたスケジュールをご提案できます。

まとめ

  • 海外拠点と海外の取引先では、確認すべき相手も承認フローも異なります。
  • 個人の同意・契約の準拠法・表現の受け止め方・商号やロゴの表示は、国内案件にはない論点として新たに発生します。
  • 承認フローは「本人 → 現地の広報・法務 → 本社」の順で、誰が最終承認者かを先に決めてください。
  • 翻訳後の文面を本人に確認してもらう一手間が、後から生じる認識のずれを防ぎます。
  • 通貨・換算時点・集計期間・単位を先に決めておくと、印刷直前の表記の作り直しを避けられます。

海外が登場する章の構成でお悩みでしたら、どこまでを御社で確認いただく前提にするかも含めて、承認フローの組み方からご相談ください。

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※本記事は一般的な説明であり、個別の事案についての法的助言ではありません。