取引先との間に守秘義務契約(NDA)を結んでいる会社は少なくありません。会社の本を書こうとしたとき、「この話は出していいのか」「取引先との契約に触れないか」という不安が先に立ち、筆が止まってしまうことがあります。

この記事では、個別の契約書をどう解釈すべきかという法的な判断はお伝えできません。 契約の内容は一件ごとに異なり、断定的な回答はかえって危険です。その代わり、出版する内容とNDAが抵触しないかを確認するために、どこを見て、誰に確認すればよいかという手順と視点を整理します。

この記事で分かること:

  • 契約書のどの条項を確認すればよいか
  • 匿名化や抽象化で対応する方法と、その限界
  • 相手方への確認をいつ、どう進めるか

まず契約書そのものを確認する

出版内容の可否を考える前に、該当する契約書の現物を確認してください。記憶や口頭の理解だけで判断するのは避けるべきです。特に次の条項に目を通す観点を持っておくと、確認が進めやすくなります。

確認する条項 確認する観点
秘密情報の定義 何が「秘密情報」として扱われると書かれているか
除外事由 公知の情報、独自に取得した情報など、対象外とされる条件があるか
利用目的の制限 秘密情報を使ってよい目的がどこまで限定されているか
契約期間・存続条項 契約終了後も義務が続くと書かれているか、その期間
例外的な開示の手続き 相手方の事前承諾など、開示に必要な手続きが定められているか

これらの条項がどう書かれているかは契約ごとに異なります。本記事では、どの条項を見るべきかという確認の視点のみを扱い、条項の一般的な解釈や適用の可否は扱いません。

原稿の記述を条項と照合する

契約書の内容を把握したら、出版予定の原稿を一文ずつ照らし合わせる作業に移ります。次のような観点で照合すると、見落としが減ります。

  • その記述は、契約書に定義された「秘密情報」に当てはまりそうか
  • 当てはまりそうな場合、除外事由に該当する可能性はあるか(例:既に自社の他の媒体で公表済みの情報かどうか)
  • 相手方の許諾なしに書いてよい範囲か、それとも事前の確認が必要な範囲か

この照合は、契約書を読んだことがない担当者だけで行うと見落としが起きやすい作業です。契約を締結した当時の担当者、または法務・契約管理部門を必ず加えてください。

「もう公表済みだから大丈夫」という判断の落とし穴

プレスリリースや展示会で一部を公表済みの内容だから、本に書いても問題ないはずだと考えがちですが、これは早計です。公表された範囲と、本に書こうとしている範囲が完全に同じとは限りません。公表済みなのは概要だけで、本では詳細な数字や経緯まで踏み込んで書こうとしていないかを、原稿と公表済み資料を突き合わせて確認してください。この突き合わせも、断定的な結論を急がず、疑わしい箇所は次の確認手順に回すという姿勢で進めます。

匿名化・抽象化で対応する

相手方の許諾を取るのが難しい場合、実名や特定情報を出さない書き方に変える対応があります。

対応 具体例
匿名化 「大手飲料メーカーとの共同プロジェクト」のように、社名を出さず属性で表現する
抽象化 具体的な数字や条件をぼかし、一般化した書き方にする
複合化 複数の事例の要素を組み合わせ、単独では特定できない形にする

ただし、匿名化すれば必ず安全というわけではありません。業界・規模・時期・担当部署といった周辺情報を組み合わせると、詳しい人には相手が特定できてしまう場合があります。 匿名化した文面ができた段階で、一度相手方に見せて確認を取る工程を挟むと安心です。

相手方への事前確認をどう進めるか

契約書の確認だけで判断がつかない場合、相手方に直接確認する選択肢があります。

  1. 掲載を検討している具体的な文面(匿名化した状態でよい)を用意する
  2. 相手方の窓口担当者に、掲載の可否について書面やメールで確認を依頼する
  3. 回答を得るまでの期間を、出版スケジュールに余裕を持って組み込む
  4. 承諾が得られた場合は、その記録(メールなど)を残しておく

事前確認は関係性への配慮にもなります。断定を避け、確認する姿勢を見せること自体が、取引先との関係を保つ上でも意味を持ちます。

確認の返事が来ない場合

相手方からの返事が期限までに来ないことも珍しくありません。この場合、承諾があったものとみなして掲載を進めるのは避けてください。次のいずれかで対応します。

  • 出版スケジュールを調整し、返事を待つ
  • 該当箇所を掲載しない形に原稿を修正する
  • より抽象化した表現に差し替えた上で、改めて確認を依頼する

返事がないことは、承諾でも拒否でもありません。 判断がつかない状態のまま進めるのではなく、御社の側でどちらの対応を取るかを決めてください。締切を過ぎても連絡がつかない相手には、確認先を変える、あるいは掲載を見送るという判断を先に決めておくと、印刷直前で立ち止まらずに済みます。

社内の確認体制をいつ組み込むか

NDAとの照合は、原稿がほぼ完成してから慌てて行うものではありません。企画の初期段階で、取引先の事例をどこまで具体的に書く予定かを法務・契約管理担当と共有しておくと、後の手戻りを防げます。

複数の部署が分担して章を書く体制では、各担当者がそれぞれ別の取引先の事例に触れることがあります。その場合、誰がどの取引先の話を書くかを取りまとめ役が把握し、確認漏れが出ないようにする工程が必要です。担当者ごとに個別で確認を進めると、どの取引先を確認済みでどこが未確認かが分からなくなりやすいため、一覧で管理することをおすすめします。分担執筆の体制づくりについては複数人で執筆する会社の本|章担当の割り振りと執筆体制の決め方とは、企画段階でどこまでの内容を扱うかを決める考え方は会社の本のテーマの決め方|読者と目的から企画を固める手順で扱っています。

判断に迷う場合の進め方

契約書を読んでも判断がつかない、除外事由に当てはまるか自社だけでは決めきれない、といった場合は、無理に自社だけで結論を出さないでください。顧問弁護士や外部の法務専門家に、該当箇所を示した上で確認を依頼する進め方が現実的です。「書いても問題ないはずだ」という推測で進めることが、最も避けたい失敗です。 確認に時間がかかりそうな箇所は、その章だけ後回しにして他の章の執筆を先に進めるという判断も、スケジュールを守る上では有効です。

当社が担う範囲・御社にお願いすること

当社が担うのは、原稿の執筆と、事実関係・表現の確認までです。契約書の解釈や、特定の記述がNDAに抵触するかどうかの法的な判断は、当社の対応範囲に含みません。御社の法務担当または顧問弁護士への確認を、原稿の該当箇所が固まった段階でお願いしています。匿名化・抽象化の表現の調整については、当社編集者がご希望の範囲に合わせて具体的な言い回しをご提案します。企業出版サービス全体の対応範囲の比較は企業出版サービスの比較と選び方|対応範囲・費用・権利を確認するでも扱っています。

まとめ

  • 出版前に、該当する契約書の秘密情報の定義・除外事由・利用目的の制限を確認する観点を持ちます。
  • 原稿の記述を条項と一文ずつ照合し、当てはまりそうな箇所を洗い出します。
  • 匿名化・抽象化は有効な対応ですが、周辺情報の組み合わせで特定される可能性が残ります。
  • 判断がつかない場合は相手方への事前確認、または法務専門家への確認を進めます。
  • 契約の解釈と抵触の可否は御社の法務・顧問弁護士の確認範囲であり、当社では判断できません。

原稿の該当箇所をどう匿名化・抽象化するかについては、どの程度まで抽象化すれば伝えたい内容が保てるかを含め、表現の調整という形でご相談いただけます。

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※本記事は一般的な説明であり、個別の事案についての法的助言ではありません。