会社の本を作るとき、「全国の書店に並べたい」と考える担当者もいれば、「配りたい相手に直接届けばよい」と考える担当者もいます。この2つは、単に見え方が違うだけでなく、初期費用・在庫リスク・入手しやすさの前提がまったく異なります。
本記事では、取次を通じた書店流通と、Amazonや自社サイトでの直接販売のみを、この3つの観点で比較します。
この記事で分かること:
- 書店流通と直接販売のみで、初期費用と在庫の持ち方がどう違うか
- 入手しやすさと価格の統制がどう変わるか
- 部数によって国立国会図書館への納本義務がかかりうること
取次流通と直接販売のみ、何が違うのか
「取次流通」は、取次(出版物の卸)を通じて全国の書店に本を配本する仕組みです。書店の店頭に並ぶ可能性がある一方、取次との契約や、卸すための一定量の在庫が必要になります。
「直接販売のみ」は、Amazonや自社サイトなど、著者・発行者が直接読者に届ける販売方法です。Amazon KDPを使えば、電子書籍とペーパーバックの両方をこの形で扱えます。
| 観点 | 取次流通(書店に並べる) | 直接販売のみ(Amazon・自社サイト等) |
|---|---|---|
| 初期費用 | 取次との契約、卸すための一定部数の印刷が必要になることが多い | KDPのペーパーバックは注文ごとに印刷され、前払いの印刷費が発生しない |
| 在庫 | 書店・取次向けの在庫を持つ | 電子書籍は在庫なし。紙もKDPなら都度印刷で在庫を持たない |
| 入手しやすさ | 全国の書店店頭やオンライン書店で見つけてもらいやすい | Amazonや自社サイトでの購入に限られる |
| 価格の統制 | 再販売価格維持制度の対象で、どこで買っても同じ定価 | 電子書籍は同制度の対象外 |
| 納本義務 | 相当部数を作成し頒布する場合、対象になりうる | 少部数の直接配布のみなら対象外の可能性が高い |
| 当社の対応 | 対応範囲外 | Amazon KDPへの入稿代行・少部数印刷が対応範囲 |
初期費用の違い
取次流通に乗せる場合、取次との契約に加えて、書店に配本するためのまとまった部数の印刷が必要になるのが一般的です。必要な部数や取次との契約条件は、取次や契約する出版社によって異なるため、本記事では具体的な金額や部数を示しません。 検討する場合は、契約先の条件を個別に確認してください。
直接販売のみの場合、Amazon KDPのペーパーバックは注文が入るたびに印刷されるため、前払いの印刷費は発生しません。電子書籍も同様に、在庫のための費用はかかりません。手渡し用の部数だけを著者用コピーとして印刷コストで注文する、という進め方ができます。
在庫リスクの違い
取次流通では、書店に配本する分の在庫を持つことになります。売れ残りが生じた場合の扱いは、取次や出版社との契約条件によって異なるため、この記事では一律には説明しません。在庫をどこがどれだけ持つのか、返品が生じた場合にどう扱うのかは、契約書で必ず確認してください。
直接販売のみでは、電子書籍に在庫という概念がなく、紙もKDPのペーパーバックであれば都度印刷のため在庫リスクがありません。まとまった部数を必要とする展示会配布などについては、会社の本を紙でも出すで使い分けを整理しています。
入手しやすさ・価格の違い(再販制度との関係)
書店で本が並ぶ場合、書籍は独占禁止法上の再販売価格維持制度の適用除外の対象に含まれており、どの書店で買っても定価が統一される仕組みが働きます。この適用除外の対象は書籍・雑誌・新聞・レコード盤など計6品目に限られ、電子書籍は含まれません。 そのため、電子書籍は販売者が価格を柔軟に設定できます。
直接販売のみの場合、読者は基本的にAmazonや自社サイトで検索して見つける必要があり、書店で偶然手に取ってもらう機会はありません。認知を広げる手段を別途用意する必要があるという点が、書店流通との大きな違いです。書籍を営業・採用にどう活かすかは出版マーケティングとは?で扱っています。
| 形態 | 再販売価格維持制度の対象 | 価格の決め方 |
|---|---|---|
| 紙の書籍(書店で販売) | 対象(適用除外の6品目に含まれる) | どの書店でも同じ定価 |
| 電子書籍 | 対象外 | 販売者が価格を設定できる |
納本義務がかかるかどうかの分かれ目
国立国会図書館法にもとづく納本制度では、頒布を目的として相当部数作成された国内発行の出版物が対象になります。相当部数の目安は通常100部以上とされ、社史・記念誌や個人の自費出版物であっても、相当の部数を作成し頒布していれば対象になります。対象となる場合、民間の出版物は1部を発行から30日以内に納入し、納入出版物代償金(小売価格の5割相当+送料)が交付されます。
取次流通で書店に配本する規模の部数を作る場合、この対象になる可能性が高くなります。一方、社内配布や手渡し用に少部数だけを直接配る場合は対象外となる可能性がありますが、正確な該当判断は国立国会図書館に確認してください。 本記事はこの制度の一般的な説明であり、個別の該当・非該当を判断するものではありません。
KDPだけでは書店に並ばない
Amazon KDPには「外部流通」という、Amazon以外の書店やオンライン小売、図書館に届ける仕組みがありますが、提供されているのは米国と英国の市場向けで、日本語で出版されたペーパーバックは登録できません。 つまり、KDPで出版しただけでは、日本の書店の棚に並ぶことはありません。
書店流通を実現するには、取次と契約する出版社を通じた別の流通ルートが必要です。ISBNと流通の関係はISBNと書店流通の基礎で詳しく説明しています。
判断の目安
参考として、書店流通を含む例と含まない例の違いを見ます。当社のAI書籍出版代行は80万円〜(税抜・表紙デザインを含む)で、書店流通・書店営業・倉庫管理は含みません。一方、公式サイトで料金を公開している鳥影社の企業出版プランは、四六判200ページ・2,000部までで300万円(税別)からとなっており、こちらにはカバーデザインや編集に加えて書店流通・書店営業・倉庫代が含まれます。含まれる工程が異なるため、金額は単純比較できません。
- 手渡し・採用・展示会での配布が中心 → 直接販売のみで対応できることが多い
- 全国の書店で一般読者に見つけてもらいたい → 書店流通を含む選択肢を検討する
- 判断がつかない → まず直接販売で始め、必要になった段階で流通を検討する
当社の対応範囲
当社の対応範囲は、Amazon KDPへの入稿代行(電子書籍・ペーパーバック)と少部数の印刷・製本までです。書店流通・書店営業・倉庫や在庫の管理は含まれません。 商業出版として書店流通を含む形をご希望の場合は、提携先の出版社を紹介できますが、刊行を保証するものではありません。
まとめ
- 取次流通は書店の棚に並ぶ可能性がある一方、契約と在庫が必要になります。
- 直接販売のみは、KDPを使えば前払いの印刷費も在庫も発生しません。
- 書籍の店頭価格は再販制度で統一されますが、電子書籍は対象外で価格を柔軟に設定できます。
- 相当部数(目安100部以上)を頒布する場合、国立国会図書館への納本義務がかかることがあります。
- KDPの外部流通は日本語ペーパーバックが対象外のため、KDPだけでは日本の書店に並びません。
御社の目的が手渡し中心か、全国での認知拡大かによって、選ぶべき流通の形は変わります。
参考情報
- Amazon KDP 外部流通(2026-09-19確認)— 外部流通は米国と英国の市場で提供。ヘブライ語・イディッシュ語および日本語で出版されたペーパーバックは登録できない。
- 国立国会図書館 納本制度の概要(2026-09-19確認)— 頒布を目的として相当部数作成された国内発行の出版物が対象。民間の出版物は1部を発行の日から30日以内に納入し、納入出版物代償金(小売価格の5割+送料相当)が交付される。
- 国立国会図書館 企業・団体、個人からの納本(2026-09-19確認)— 社史・団体史等の出版物や個人による自費出版物でも、相当の部数(通常100部以上が目安)を作成し頒布されているものは納本の対象。
- 公正取引委員会 相談事例集「著作物再販対象商品と非適用除外品のセット販売」(2026-09-19確認)— 独占禁止法上の再販売価格維持の適用除外は書籍・雑誌・新聞・レコード盤など計6品目に限定され、電子書籍は含まれない。
- 鳥影社 企業出版のご案内(2026-09-17確認)— 四六判200ページ・2,000部までで300万円(税別)から。書店流通・書店営業・倉庫代を含む。
※本記事は一般的な説明であり、個別の事案についての法的助言ではありません。納本義務の該当有無や再販制度の適用範囲については、国立国会図書館・公正取引委員会など所管機関の情報でご確認ください。