同じ拠点で、同じ会社の看板の下で働いていても、部門が違うと話が通じない。そんな悩みを聞くことがあります。営業は数字を優先語彙とし、開発・製造は品質と工程を優先語彙とし、管理部門は規程を優先語彙とします。同じ「顧客」という言葉でも、営業には「契約の相手」、カスタマーサポートには「クレームの相手」というまったく違う像が浮かびます。
社内報や全社集会である程度は埋められますが、限界もあります。本という形式が向いているのは、各部門の「仕事の流れ」そのものを他部門の社員に見せられる点です。 普段接点のない部門が何を優先し、何に苦労しているかを、断片的な噂ではなくまとまった形で伝えられます。
この記事では、部門間の断絶に橋を架けるための本の構成方法と、実際の制作で起きやすいつまずきを整理します。
この記事で分かること:
- 部門ごとの優先語彙の違いが生む断絶の具体例
- 断絶に橋を架ける構成のパターン
- 部門ヒアリングで社内対立を助長しないための編集の考え方
部門ごとに優先語彙が違う
断絶の正体は、多くの場合「悪意」ではなく「優先順位の違い」です。
| 部門 | 優先語彙の例 | 見えにくくなりがちな相手の事情 |
|---|---|---|
| 営業 | 数字、納期、契約 | 開発が抱える技術的な制約や検証の時間 |
| 開発・製造 | 品質、工程、仕様 | 営業が受けている顧客からの値引き・納期の圧力 |
| 管理部門(経理・法務) | 規程、リスク、承認プロセス | 現場のスピード感、機会損失への焦りとの兼ね合い |
| カスタマーサポート | クレーム対応、顧客感情 | 開発側の仕様変更にかかる時間、営業側の受注優先の事情 |
この表からわかるのは、断絶を解消するには「相手が何を優先しているか」を知る必要があり、それは日常業務の中では自然には伝わらないということです。
断絶に橋を架ける構成のパターン
一冊にする方法は、目的によって向き不向きが分かれます。
| 型 | 内容 | 効果 | 弱点 |
|---|---|---|---|
| 全社史型 | 会社全体の歩みを俯瞰する | 会社への理解は深まる | 断絶の解消には直接効きにくい |
| 部門紹介の並列型 | 各部門の一日の流れを並べて見せる | 他部門の仕事内容が分かる | 相互の関係性までは見えにくい |
| 行き違いエピソード型 | 実際に起きた行き違いと、その後の解決を描く | 「なぜ分かり合えなかったか」が具体的に伝わる | 素材集めと編集の配慮が必要 |
断絶の解消を目的にするなら、行き違いエピソード型が最も効果的です。ただしこの型は取材と編集の難度が上がります。実際に起きた行き違いを扱う以上、書き方を誤ると社内対立を再燃させかねません。3つの型は排他的ではなく、全体の骨格は部門紹介の並列型にしつつ、断絶が特に強い数組の部門間だけ行き違いエピソード型の章を差し込むという組み合わせ方も実務ではよく使われます。
部門ヒアリングでつまずく箇所
部門ヒアリングを進めると、次のようなつまずきが起こります。
- 他部門への不満や愚痴がそのまま出てくる。これをそのまま書くと社内対立を助長するため、編集で一般化・匿名化する必要があります。
- 一方で丸めすぎると当たり障りのない内容になり、断絶を埋える効果が薄れます。「誰が悪いか」ではなく「なぜそうなったか」に焦点を当てる書き方が、この難しさへの実務的な対処です。
- 経営層が「全社一丸」という言葉で締めたがる一方、現場の具体的な行き違いには触れたがらないことがあります。理念面での接続は経営理念を日々の行動に落とし込むために、本をどう構成するかで扱う理念本の考え方とも重なります。
編集での一般化とは、たとえば次のような書き換えを指します。
| ヒアリングでの発言 | 本文での扱い方 |
|---|---|
| 「営業がいつも無理な納期を約束してくる」 | 「受注時の希望納期と、開発側の検証期間との間に差が生じることがある」 |
| 「経理の承認が遅くて機会を逃した」 | 「承認プロセスと現場のスピード感の間で、判断のタイミングがずれることがある」 |
固有の部門名や個人を名指しする表現は、原因の構造(なぜそのずれが起きるか)を説明する表現に置き換えます。この置き換えの塩梅が、行き違いエピソード型の編集で最も経験を要する部分です。
よくある失敗の型
- 経営層の視点だけで「全社一丸」を連呼する精神論になり、現場の具体的な行き違いに触れないため、結局読まれない。
- 特定の部門を持ち上げすぎて、他部門から「自分たちの仕事は軽視されている」という新たな不満を生む。
- エピソードを丸めすぎて、結局どこにでも書けるような美談になり、断絶の実態が伝わらない。
- 取材対象を管理職だけに絞り、現場の若手社員の視点が抜け落ちる。断絶は現場レベルで起きていることが多く、管理職の説明だけでは実態と食い違うことがあります。
誰が読み、いつ配るか
この種の本は、配るタイミングによって効果が変わります。
| タイミング | 想定する読者 | 狙い |
|---|---|---|
| 新入社員研修 | 入社直後の社員 | 配属前に他部門の仕事内容と考え方を知ってもらう |
| 部門横断プロジェクトの立ち上げ時 | プロジェクトメンバー | 参加者の前提知識のずれを事前に埋める |
| 拠点統合・組織再編のタイミング | 影響を受ける全社員 | 変化の背景と各部門の役割を共有する |
配布の企画自体は御社の人事・経営企画が主導するものですが、どのタイミングに合わせて発行するかによって、取材すべき部門やエピソードの選び方が変わります。着手前にこの点を共有していただくと、構成の方向がぶれません。
費用・工数が増える場面
- 部門数が増えるほど、取材対象・内容確認対象が増えます。全部門を対象にすると、取材と確認の往復が部門数分発生します。
- どの部門にどれだけのページを割くかという配分の調整には、社内での合意形成の時間が必要です。この調整は当社の外側で発生するため、御社側で時間を見込んでおいてください。
- 行き違いエピソードを扱う場合、関係者への事実確認と表現の調整に、通常の書籍より時間がかかります。
全社の歩みを俯瞰する形にしたい場合は、AIで社史・記念誌を書く|会社の歩みを一冊にまとめる費用と進め方も選択肢になります。断絶の解消が目的か、歩みの記録が目的かで、選ぶ型は変わります。
当社の対応範囲と御社にお願いすること
当社が引き受ける範囲は、各部門への取材と原稿化、行き違いエピソードの一般化・匿名化を含めた構成案の作成です。
御社にお願いすることは、どの部門を取り上げるか、部門間のページ配分、そして誰の発言をどう扱うかという社内の政治的な判断です。これらは当社が一方的に決められる範囲を超えており、経営層と関係部門の合意が前提になります。複数の経営者が体制の意図を説明する章を設ける場合は、経営者が一人ではない会社は、誰の言葉として経営者本をまとめるかも参考にしてください。
内容の最終決裁者も御社側で決めておく必要があります。部門横断の内容は特定の部門長だけでは決裁できないことが多く、経営企画や経営層が最終確認する体制にしておくと、公開直前の差し戻しを防げます。
費用は**80万円〜(税抜・表紙デザインを含む)**です。対象部門数が多い場合は、見積りの段階で共有してください。
まとめ
- 部門間の断絶の多くは悪意ではなく、営業・開発・管理といった部門ごとの優先語彙の違いから生まれます。
- 断絶に橋を架けるには、全社史型や並列紹介型よりも、行き違いエピソード型のほうが効果的です。
- 部門ヒアリングでは他部門への不満がそのまま出やすく、一般化・匿名化しつつも丸めすぎない編集が必要です。
- 精神論に終始する、特定部門を持ち上げすぎるといった失敗は、現場の具体的な行き違いを避けたことが原因です。
- 部門数が増えるほど取材・確認の往復が増えるため、まずは断絶が強い部門に絞ることをおすすめします。
どの部門間の断絶を優先して扱うか、現状の課題感からご相談いただけます。