質問リストを準備しても、当日の受け答えが「特に何も」「普通にやってきただけです」で終わってしまう。会社の本の取材でよくある壁です。用意した質問を読み上げるだけでは、原稿にできる具体的な材料は引き出せません。
材料を引き出せるかどうかは、質問リストの中身よりも、当日どう聞き重ねるかにかかっています。本記事では、質問リストという準備物ではなく、取材の場で答えを具体化させていく聞き方だけを扱います。
この記事で分かること:
- 抽象的な答えを具体的なエピソードに変える聞き方
- 経営者と社員で変えるべきヒアリングの重点
- 沈黙・脱線が起きたときの対応と、取材後にすぐやること
準備物と当日の技術は別
取材に使う質問カテゴリーや項目立ての作り方は取材ヒアリングシート・質問リストの作り方にまとめています。リストがどれだけ整っていても、当日の聞き方が浅いと、答えも浅いままで終わります。 逆に言えば、リストが多少ラフでも、聞き重ねる技術があれば材料は引き出せます。この記事は、その聞き重ねる技術だけを扱います。
抽象的な答えを具体化させる
取材で最も多いのは、理念や方針についての抽象的な答えです。抽象的な言葉のまま原稿にすると、どの会社にも当てはまる内容になり、読者に残りません。
| 抽象的な答えのパターン | 深掘りの聞き方 |
|---|---|
| 「お客様第一を大事にしています」 | 「たとえば直近で、それが具体的な行動になった場面はありますか」 |
| 「社員の成長を支援しています」 | 「実際に成長を感じた社員の例を1人挙げるとしたら誰ですか、何が変わりましたか」 |
| 「大変でしたが乗り越えました」 | 「一番つらかった瞬間はどの場面ですか、そのときどう判断しましたか」 |
| 「昔からずっと変わらない考え方です」 | 「その考え方が試されるような出来事はありましたか」 |
「たとえば」「具体的には」「一つ挙げるなら」という言葉を挟むだけで、抽象的な答えが具体的な場面の話に変わります。 この一言を差し込む習慣が、取材の質を大きく左右します。
経営者と社員で聞き方の重点を変える
同じ聞き方を経営者にも社員にも使うと、どちらからも浅い答えしか引き出せません。
| 対象 | 引き出したいもの | 有効な聞き方 |
|---|---|---|
| 経営者 | 意思決定の背景、判断の基準 | 「その判断のとき、他にどんな選択肢があり、なぜそれを選ばなかったのですか」 |
| 経営者 | 数字の根拠 | 「その数字は何と比べて、どういう意味を持ちますか」 |
| 社員 | 現場での具体的な出来事 | 「その仕事で一番印象に残っている1日を教えてください」 |
| 社員 | 経営者への率直な評価 | 「経営者の言葉で、実際に現場で効いたと感じたものはありますか」 |
経営者には「なぜ」を、社員には「いつ・どこで・何が起きたか」を重点的に聞くと、役割の違う材料が集まります。 どちらも同じ「なぜ」ばかりを聞くと、社員からは答えにくい抽象論しか出てきません。
沈黙と脱線への対応
沈黙が続いたときに、すぐに次の質問へ移らないでください。数秒の間を置くと、相手が考えをまとめて話し始めることがあります。 それでも出てこない場合は、質問を分割して、答えやすい部分から聞き直します。
逆に話が脱線して広がりすぎた場合は、無理に止めずに一区切りつくまで聞いてください。脱線した話ほど、その場で思い出した本音や具体的なエピソードであることが多く、原稿の良い材料になります。ある程度聞いたところで「先ほどの質問に戻ってもよいですか」と自然に戻せば問題ありません。
記録の取り方
発言をそのまま原稿に活かしたい場合は、録音が有効です。録音は必ず本人の同意を得たうえで行い、取材の冒頭で目的とあわせて伝えてください。 同意を得ずに録音することは避けます。
メモは、相手の発言を要約するのではなく、印象的な言い回しはそのままの言葉で書き取ることを意識してください。要約したメモから原稿を書くと、発言者らしさが消えてしまいます。
取材後にすぐやること
取材が終わった直後は、記憶が最も鮮明な時間です。その日のうちに、メモと録音を突き合わせて、使えそうな発言に印を付けてください。 数日置くと、話のニュアンスや、その場の空気を忘れてしまいます。
印を付けた発言は、どの章で使うかをヒアリングシートの「使う章」の欄に書き戻しておくと、原稿を書く段階で探し直す手間がなくなります。取材後の原稿への落とし込みや、社内での事実確認・レビューの流れは法務・広報・現場を回す社内チェック体制で扱っています。
質問を並べる順番と時間配分
同じ質問リストでも、聞く順番によって引き出せる内容が変わります。答えにくい質問をいきなり最初に聞くと、その後の受け答えも硬くなります。
| 順番 | 内容 | 時間配分の目安(60分取材の場合) |
|---|---|---|
| 1 | 答えやすい事実確認(沿革・現状など) | 最初の10分 |
| 2 | 中心となるテーマ(判断の背景、印象的な出来事) | 中盤の35分 |
| 3 | 抽象化・締めくくり(読者へのメッセージ、今後の展望) | 最後の15分 |
中心となるテーマに最も長い時間を割り当て、締めくくりの質問は短めに切り上げます。 逆に締めくくりの質問に時間を使いすぎると、肝心の具体的なエピソードを聞く時間が足りなくなります。時間が押した場合は、締めくくりの質問を簡略化してでも、中心テーマの深掘りを優先してください。
相づちと質問のバランス
取材者が話しすぎると、相手の発言時間が削られます。相づちは短く、自分の意見や感想を長く語らないことを意識してください。 特に取材者自身が業界に詳しい場合、つい解説や共感のエピソードを挟みたくなりますが、それは原稿の材料にはなりません。
| 取材者の振る舞い | 起きること |
|---|---|
| 短い相づち(「なるほど」「それで」)で先を促す | 相手が話し続け、材料が増える |
| 自分の意見や体験談を挟む | 相手の話す時間が削られ、材料が減る |
| 相手の言葉を繰り返して確認する | 発言の正確な意図を取り違えずに済む |
「それで」「もう少し詳しく」という短い促しだけで、次の具体的な話が出てくることがほとんどです。 沈黙を怖がって取材者が話しすぎる状態を避けてください。
取材の締めくくり方
取材の終わり方も、次に活きる材料に影響します。最後に「話し忘れたことはありませんか」と一言添えるだけで、準備していなかった話が出てくることがあります。 用意した質問をすべて消化した安心感から、締めくくりの一言を省略してしまいがちですが、この一言が思わぬ材料につながることは少なくありません。
締めくくりでは、掲載可否の確認もあわせて行ってください。「今日お話しいただいた内容で、原稿に載せてほしくない部分はありますか」と聞いておくと、原稿化した後に掲載範囲でもめることを防げます。
当社の対応範囲
当社のヒアリング担当が実際の取材を実施し、原稿の材料として整理する対応をしています。ヒアリングシートの準備から取材の実施、AIによる執筆、プロ編集者による品質確認までを一連の工程として引き受けています。経営者本としての切り口の作り方はAIで経営者本を書く、企画全体の立て方は会社の本のテーマの決め方もあわせてご覧ください。
まとめ
- 質問リストという準備物と、当日の聞き重ねる技術は別のものです。
- 「たとえば」「具体的には」を挟むことで、抽象的な答えを具体的なエピソードに変えられます。
- 経営者には「なぜ」を、社員には「いつ・どこで・何が起きたか」を重点的に聞きます。
- 脱線した話は止めずに聞き、その場の本音や具体例を拾います。
- 取材当日のうちに、使えそうな発言へ印を付けて章に紐づけておきます。
取材の実施そのものを当社にお任せいただくことも可能です。