事業計画書を出しても、投資家から「なぜこの事業を始めたのですか」「厳しい時期に何を判断基準にしましたか」と聞かれることがあります。売上予測や市場規模の数字は書けても、そうした質問にその場で言葉を尽くすのは簡単ではありません。

事業計画書は、将来の数字を根拠とともに示すための資料です。一方で投資家は、数字の外挿だけでなく、その数字を実現する経営者がどういう人物かも判断材料にします。ここが数字だけでは埋まらない部分です。

結論から言うと、この定性的な部分を補うのに、会社の本という形式が向いています。数字を書く場所ではなく、経緯と姿勢を書く場所として使い分けます。本記事では、何を書くか、いつ渡すか、事業計画書とどう整合させるかを整理します。

この記事で分かること:

  • 事業計画書に書けることと、本でしか伝えられないことの違い
  • 投資家に響く「定性的な部分」の具体的な中身
  • 資金調達のフェーズによる使い分けと、当社の対応範囲

事業計画書に書けること、本で補うこと

まず役割を分けて考えます。同じ資料に両方を詰め込むと、数字の説明が長い読み物に埋もれ、逆に経緯の説明が数字の羅列に埋もれます。

項目 事業計画書
主な内容 売上・費用の予測、市場規模、資金使途 創業の経緯、判断の姿勢、価値観
時間軸 これからの数年 これまでの経緯から現在まで
更新頻度 四半期・年次で更新 大きな転機があったときに改訂
読み手が確認する内容 数字の根拠と実現可能性 数字を実現する人物・組織への信頼
提出の位置づけ 投資判断の一次資料 補足資料

本は事業計画書の代わりにはなりません。 数字と根拠は事業計画書に書き、本はその数字の背景にある経緯を書く場所として使い分けてください。

投資家がなぜ定性的な情報を求めるのか

投資家が見ているのは、今日の数字ではなく、環境が変わったときにこの経営者がどう判断するかです。事業計画書の数字は前提条件が変われば外れます。そのときに何を優先し、何を諦めるかという判断の型は、数字からは読み取れません。

とくに実績の蓄積が薄いシード期・アーリー期では、この傾向が強くなります。売上や顧客数といった実績で語れる材料が少ない分、経営者個人の経緯や判断の姿勢が相対的に重い材料になります。逆に実績が積み上がった段階では、数字そのものが説得材料になるため、本の役割は「数字を補足する背景説明」に近づきます。また、投資家は一度の面談だけで判断するわけではなく、複数回のやり取りの中で経営者への理解を深めていきます。本はその過程で繰り返し参照される資料になり得るため、面談の場で語り切れなかった経緯を後から補う役割も果たします。

本に書く「定性的な部分」の中身

漠然と「熱意を伝える」と考えると、どの会社にも書けるような一般的な文章になります。具体的には、次のような場面を選んで書くと、経営者固有の判断の型が伝わります。

  • 創業のきっかけになった具体的な出来事(市場の見立てではなく、個人的な体験や違和感)
  • 最初の顧客や協力者を得た経緯
  • 資金や人が足りなかった時期に、何を優先し何を後回しにしたか
  • 撤退や方向転換をした判断があれば、その理由
  • 採用や組織づくりで譲れないと決めていること

判断が分かれるのは、失敗や撤退の経緯をどこまで書くかです。 成功だけを並べた本は、かえって薄い印象を与えます。一方で、投資家との交渉中の条件や、社内で未決定の事項まで書き込むと、後で状況が変わったときに古い記述が残ります。すでに区切りがついた過去の判断は書き、進行中の交渉や未確定の事項は書かない、という線引きが実務的です。

経営者個人の考え方を本にまとめる進め方全体は、AIで経営者本を書くで解説しています。読者を投資家に絞る場合は、そこから章立てをどう変えるかがテーマ設計の作業になります。テーマの決め方は会社の本のテーマの決め方をご覧ください。

書くときにありがちな失敗の型

  • 創業のストーリーを美談化しすぎる。 苦労を経て一直線に成功へ至ったという書き方をすると、実際の経営判断が持つ複雑さが伝わらず、かえって浅い印象を与えます。迷いや後悔も含めて書くほうが、判断の型としては伝わります。
  • 抽象的な理念だけで終わらせる。 「挑戦を恐れない」「顧客第一」といった言葉だけを並べても、経営者固有の判断基準は伝わりません。具体的な出来事とセットにして初めて、投資家が評価できる材料になります。
  • 想定読者を絞らずに書く。 一般消費者向けの会社紹介と同じトーンで書くと、投資家が知りたい数字への向き合い方や意思決定の姿勢が薄まります。読者を投資家に絞った構成にする必要があります。

事業計画書との整合性を保つ

本と事業計画書に矛盾があると、両方の信頼性が下がります。 ありがちな失敗の型は次のとおりです。

  • 本では「急成長中」と書き、事業計画書の実績値は横ばいになっている
  • 未達の目標を、達成したかのような表現で書いてしまう
  • 本に書いた事業の説明が、事業計画書の事業内容と範囲がずれている

これらは、本と事業計画書を別々の担当者が作ると起きやすくなります。原稿を確定する前に、事業計画書を作成した側と本の原稿を照らし合わせる工程を、御社側の確認として必ず入れてください。当社は原稿の執筆と品質確認を担当しますが、事業計画書の数字との突き合わせは御社にお願いしています。

資金調達のフェーズ別の使い分け

同じ本でも、フェーズによって使う場面と役割が変わります。

フェーズ 事業計画書の役割 本の役割
シード・アーリー 事業の見立てと資金使途の提示 実績が薄い分を、経緯と姿勢で補う
ミドル・レイター 実績を踏まえた成長予測 実績の背景にある判断の一貫性を示す
上場準備 制度に沿った開示資料が中心 社内外への説明資料として位置づけが変わる

上場準備の段階に入ると、本の使い方は投資家向け説明から、審査プロセスの中での補足資料という位置づけに変わります。この違いは上場審査の手続きの中で、本は説明資料としてどう位置づけられるかで詳しく整理しています。

当社が引き受ける範囲、御社にお願いすること

当社が担当すること 御社にお願いすること
取材・原稿の執筆、プロ編集者による品質確認 事業計画書との数字・事実関係の整合性の最終確認
図表・表紙デザイン、Amazon KDPへの入稿代行 どの経緯・エピソードを開示するかの最終判断
投資家向けに読者像を絞った章立ての提案 交渉中の条件など、非公開情報の取り扱いの判断

費用は**80万円〜(税抜・表紙デザインを含む)**です。原稿執筆は最短1週間が目安ですが、投資家説明のスケジュールに合わせて着手時期をご相談ください。

まとめ

  • 事業計画書は数字と根拠を示す資料、本は経緯と判断の姿勢を伝える補足資料として役割を分けます。
  • 実績が薄いシード・アーリー期ほど、定性的な情報の相対的な重みが増します。
  • 書く内容は、区切りがついた過去の判断に絞り、進行中の交渉や未確定事項は書きません。
  • 本と事業計画書の数字・事実関係の整合性は、公開前に御社での確認が必須です。
  • 上場準備段階に入ると、本の位置づけは投資家向け説明から審査プロセスの補足資料へと変わります。

投資家への説明で何を補うべきか、御社の事業計画書を拝見しながら一緒に整理します。

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