「専門用語をわかりやすく言い換えましょう」という助言だけでは、実際の原稿では判断できません。どの用語を言い換え、どの用語をそのまま残すかという線引きこそが、手を動かすときに迷う部分です。

御社の原稿には、業界内では当たり前に使う専門用語と、社内でしか通じない略語や呼び名が混在しているはずです。この二つは性質が違うため、同じ基準で言い換えるべきではありません。判断の軸は「読者が業界の外にいるか」と「その言葉が本の主張に不可欠か」の二つです。 本記事では、この二軸から言い換えの範囲を決める具体的な方法を扱います。

この記事で分かること:

  • 言い換えるべき用語と、あえて残すべき用語の見分け方
  • 初出定義・注釈・用語集といった言い換えの具体的な技法
  • 社内用語の洗い出し手順と、やりすぎた言い換えが招く失敗

読者との距離で言い換えの範囲は変わる

同じ専門用語でも、想定読者によって扱いは変わります。まず、御社の本を誰が読むかを整理してください。

想定読者 専門用語との距離 基本方針
一般消費者・求職者 ほぼ知らない前提 初出で一文で定義し、以降は平易な言葉で通す
同業他社・取引先 用語自体は知っている 用語は残し、自社特有の使い方だけ補足する
投資家・金融関係者 業界用語は知っているが社内用語は知らない 業界用語はそのまま使い、社内用語だけ言い換える

読者が複数層にまたがる本もあります。その場合は、一番専門知識が浅い層を基準に定義を入れ、詳しい読者には読み飛ばせる書き方にしておくと両立できます。

言い換えるべき用語の見分け方

すべての専門用語を疑う必要はありません。次の観点に当てはまる用語から優先して見直してください。

見分け方 具体例 対応
一般的な辞書や検索で説明が出てこない 社内システムの呼称、プロジェクトの略称 平易な言葉に置き換えるか、初出で説明を添える
業界内でも会社によって指す範囲が違う 「工程」「フェーズ」など粒度がまちまちな言葉 本の中でどの範囲を指すか、先に定義してから使う
読者の判断に直結する概念なのに専門的 料金体系や品質基準に関わる専門用語 まず平易な言葉で説明し、専門用語は補足として添える
表記や発音が複数ある 英略語のカタカナ表記ゆれ 表記を一つに決めて統一する

最後の項目は、表記統一の話と重なります。詳しい手順は会社の本の表記ゆれの統一ルールの作り方|社名・製品名・数字の揃え方で扱っています。

あえて残したほうがよい用語

言い換えが常に正解とは限りません。次のような用語は、あえて残す判断もあり得ます。

  • 専門性の裏付けになる用語:業界内読者に対して、正確な用語を使うこと自体が信頼の証になる場合
  • 平易な言い換えが逆にぼやける用語:厳密な定義がある技術用語を一般語に置き換えると、意味が変わってしまう場合
  • 読者が検索で使う言葉と一致する用語:読者自身がその用語で情報を探している場合、言い換えてしまうと届きにくくなる

残す場合も、初出時に一言だけ補足を添えておくと、知らない読者を置き去りにしません。「専門用語をそのまま使う」と「補足を一切しない」はイコールではない、という点が実務での迷いどころです。

言い換えの具体的な技法

言い換えには段階があります。全部を平易な言葉に置き換える一択ではありません。

  1. 初出定義:その用語が最初に出てきた箇所で、一文で意味を説明する
  2. 注釈:カッコ書きや脚注で、本文の流れを止めずに補足する
  3. 言い換え+原語併記:まず平易な言葉で説明し、カッコで専門用語を添える(業界内読者への配慮にもなる)
  4. 巻末用語集:頻出する専門用語をまとめて解説し、本文中の説明を簡潔にする

同じ用語を毎回定義し直すと、かえって読みにくくなります。定義は原則として初出の一箇所に置き、以降は同じ言葉で通すのが基本です。この一貫性が崩れると、読者は「さっきと同じ意味なのか」と迷います。

言い換えの前後を具体的に見ると、判断がしやすくなります。

言い換え前 言い換え後の一例
「当社のオンボーディング施策により離脱を抑制した」 「新しく入った社員が早く仕事に慣れる仕組みを整え、途中で辞める人を減らした」
「本製品はスケーラビリティに優れる」 「利用者が増えても性能が落ちにくい設計になっている」
「アジャイルな体制で開発を進めた」 「短い期間で試作と見直しを繰り返しながら開発を進めた」

一般消費者・求職者向けの本ではこの言い換え後の形を基本にし、同業他社向けの本では元の専門用語を残したまま、必要に応じて一言だけ補足するという使い分けになります。

社内用語・略語を洗い出す手順

社内用語は、執筆者本人には「当たり前の言葉」に見えるため、自分だけで洗い出すのは困難です。次の順番で進めてください。

  1. 原稿の下書きから、専門語・略語・固有の呼称をリストアップする
  2. 原稿を書いた部署以外の社員、または社外の家族・知人に読んでもらう
  3. 意味が分からなかった言葉を挙げてもらい、リスト化する
  4. リストをもとに、言い換えるか・残すかを個別に判断する

AIで原稿の下書きを作る場合、一般的な業界用語はAIがある程度平易な表現に調整しますが、社内でしか使われていない略称やプロジェクトコード名までは、AIも把握できません。 この部分は、御社からの用語リストの提供が実務上のつまずき所になりやすい点です。

やりすぎた言い換えが招く失敗

言い換えが行き過ぎると、別の問題が起きます。

  • 業界内読者にとって内容が幼稚に見え、専門性の裏付けが伝わらなくなる
  • 社内で長年使ってきた固有名詞を変えると、社員が読んだときに違和感を持つ
  • 章によって言い換えたりしなかったりで、表記がばらつく

3点目は、複数の部署がそれぞれ章を担当する本で特に起きやすい失敗です。担当者ごとに「どこまで言い換えるか」の感覚が違うため、最終的に一人が全体を通して基準を揃える工程が必要になります。分担執筆の体制については複数人で執筆する会社の本|章担当の割り振りと執筆体制の決め方とはで扱っています。

当社が担う範囲・御社にお願いすること

当社の編集者は、原稿全体を通して言い換えの粒度を調整し、初出定義や表記の一貫性をチェックします。この作業は、**基本料金80万円〜(税抜・表紙デザインを含む)**に含まれるAIによる執筆とプロ編集者による品質確認の範囲で行います。

一方で、どの用語を残し、どの用語を言い換えるかの最終判断には、御社にしか分からない事情が関わります。業界内での通用度、社内での呼び方の慣習、対外的に使ってよい呼称かどうかは、当社では判断しきれません。御社の広報・現場担当者による確認を、原稿の初期段階で一度いただく前提で進めています。目安として、原稿の冒頭一章分をお見せした段階で、言い換えの方向性が御社の感覚に合っているかを確認していただくと、後の章での手戻りを防げます。企画段階での読者設定の決め方は会社の本のテーマの決め方|読者と目的から企画を固める手順、AIを使った執筆全体の流れはAIで企業出版するには?ChatGPTで会社の本を書く全手順をご覧ください。

まとめ

  • 言い換えるかどうかは、読者が業界の外にいるかとその用語が本の主張に不可欠かの二軸で判断します。
  • 一般的な辞書に無い言葉、粒度がまちまちな言葉は言い換えの優先候補です。
  • 専門性の裏付けや検索での一致を優先したい用語は、あえて残す判断もあります。
  • 社内用語の洗い出しは、執筆者本人ではなく第三者に読んでもらう工程が欠かせません。
  • 言い換えの基準は章によってばらつきやすく、最終的に一人が全体を通して揃える必要があります。

用語の言い換え基準に迷ったら、原稿の一部を見せていただいた上で一緒に整理します。

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