複数回に分けてAIに原稿を書かせると、章によって「です・ます」と「である」が混ざったり、同じ会社を「当社」と呼ぶ章と「弊社」と呼ぶ章が混在したりすることがあります。1回ごとの生成は自然でも、通して読むと1冊としてのまとまりを欠くという状態です。
これは、生成のたびに前提が共有されていないために起きます。対策は、統一すべき要素をあらかじめ洗い出し、文体ガイドとして全ての生成に渡すことです。本記事では、統一すべき要素と、ガイドの作り方、それでも残るズレの直し方を扱います。
この記事で分かること:
- 章ごとの生成で文体がずれる仕組み
- 統一すべき4つの要素と、文体ガイドの作り方
- 検索置換で直せる範囲と、通し読みでしか気づけないズレ
なぜ生成のたびに文体がずれるのか
AIは、その回に渡された指示と文脈をもとに文章を作ります。前の回でどんな語尾を使ったか、どんな一人称を使ったかは、明示的に伝えない限り引き継がれません。
とくにずれやすいのは、次のような「毎回無意識に選んでいる」要素です。
- 文末の形(です・ます/である、体言止めの頻度)
- 主語の呼び方(当社・弊社・社名そのまま)
- 敬語の丁寧さの水準
- 同じ概念を指す言葉の選び方(「社員」「スタッフ」「メンバー」など)
これらは1章単独で読むと違和感がなくても、通して読むと同じ本の中で人格が変わったような印象を与えます。
統一すべき4つの要素
文体の統一で扱う要素を整理すると、次の4つに分けられます。
| 要素 | 統一する内容 | 放置した場合の見え方 |
|---|---|---|
| 文末表現 | です・ます調かである調か、体言止めの使用頻度 | 章によって硬さが変わって見える |
| 一人称・呼称 | 「当社」か「弊社」か、社名の略し方 | 同じ会社を指す言葉が揺れて見える |
| 敬語レベル | 丁寧語の密度、謙譲語の使用範囲 | 章によって読者への距離感が変わる |
| 用語の言い換え | 専門用語や社内用語の表記統一 | 同じものを指す言葉が複数あるように見える |
この4つは、章の内容とは独立して統一できる項目です。 内容の正確さとは別に、表現のルールとして先に決めておけます。
文体ガイドの作り方
文体ガイドには、抽象的な方針ではなく、実際に使う表現の見本を入れます。
- 見本文章 … 目指す文体で書かれた数百字程度の文章例(既存の広報物や、経営者の話し方を反映した短い文章)
- NGワードと言い換え … 使わない言葉と、代わりに使う言葉の対応表
- 固有名詞の表記ルール … 会社名・部署名・役職名の正式な書き方
- 一人称・呼称の指定 … 「当社」を使う、社名の略称は使わないといった具体的な指定
抽象的に「丁寧な文体で」とだけ伝えるより、見本の文章そのものを渡すほうが、AIは狙った文体を再現しやすくなります。 ガイドは生成前に一度作れば、以降のすべての章の生成で使い回せます。
見本文章はどこから作るか
見本文章は、ゼロから書き起こす必要はありません。既存の会社案内やWebサイトの文章、経営者への短いヒアリングの書き起こしから、そのまま使える言い回しを抜き出す方法が効率的です。すでにある文章の中に「らしさ」が表れている箇所を見つけて、それを見本として育てるという考え方です。
複数の章の担当が変わる場合や、期間を空けて追加の章を書く場合は、文体ガイドをそのまま次の担当に渡します。ガイドを作った本人以外が生成に関わっても、同じ前提から始められることが目的です。
語尾以外に統一しておきたい細部
文末や呼称ほど目立ちませんが、放置すると通し読みで気になる細部もあります。
- 数字の書き方(漢数字か算用数字か、桁の区切り方)
- 見出しの付け方(体言止めで統一するか、文の形にするか)
- 強調の使い方(太字をどのくらいの頻度で使うか)
- 章の始まり方・終わり方の型(問いかけで始める、結論で終えるなど)
これらは1つずつは小さな違いですが、積み重なると「章ごとに違う人が書いた」という印象を強めます。 文体ガイドに含めておくと、通し読みでの修正箇所を減らせます。
生成した原稿をそろえる工程
すべての章にガイドを渡しても、細かいズレは残ります。そろえる作業は、機械的にできる範囲とできない範囲に分かれます。
| 作業 | 方法 | 向いている対象 |
|---|---|---|
| 表記の統一 | 検索置換 | 「弊社」→「当社」、固有名詞の表記ゆれ |
| 語尾の統一 | 検索置換+目視確認 | 「である」調が混ざった文末 |
| 説明の詳しさの調整 | 通し読みでの書き換え | 章によって説明が丁寧すぎる・簡潔すぎる箇所 |
| 話しかけるトーンの調整 | 通し読みでの書き換え | 読者への距離感の違い |
検索置換で直せるのは表記レベルのズレまでです。 説明の詳しさや読者への話しかけ方といった、文脈に依存するズレは、通して読みながら手で直す必要があります。
分割して書かせる際の一貫性の保ち方はAIに章単位で書かせるときの分割方法|長い原稿を破綻させないコツ、指示文そのものの作り方は会社の本の原稿をAIに書かせるための具体的なプロンプトの作り方とはで扱っています。経営者本人の語り口を通す本についてはAIで経営者本を書く|社長の出版で会社の信頼を高める方法もご参照ください。
校正段階でしか気づけないズレのパターン
生成直後には気づきにくく、通し読みや校正の段階で初めて見つかるズレがあります。
- 章の前半は丁寧で、後半になるほど説明が簡潔になる(分量への意識が強まるため起きやすい)
- 同じ出来事を指す言葉が章によって違う(「取り組み」「施策」「プロジェクト」など)
- 経営者の発言として書かれた文章の口調が、実際の話し方と乖離している
- 章末の締めくくり方(呼びかけで終える、断定で終える)が章ごとにばらつく
これらは1章ずつ確認しても気づきにくく、全体を通して読んだときに初めて目につく種類のズレです。 分割して生成する原稿ほど、通し読みの工程を省略しないことが重要になります。
通し読みは、執筆が全章終わってから一度にまとめて行うより、数章ごとに区切って早めに行うほうが、直す分量を小さく保てます。 全章が終わるまで待ってから通し読みをすると、直したい箇所が多く見つかりすぎて、どこから手を付けるか判断しづらくなることがあります。
文体ガイドを作らずに進めるとどうなるか
文体ガイドを省略して、章ごとにその場の指示だけで生成を進めるケースもあります。1章、2章程度であれば大きな問題にはなりませんが、章数が増えるにつれて、修正すべき箇所が幾何級数的に増えていきます。
とくに、途中で書き手や確認担当者が交代する場合、口頭で伝えていたルールは引き継がれません。文体ガイドという文書にしておくことが、担当者の交代や記憶の薄れに対する備えにもなります。 着手前の準備として軽視されがちですが、後工程の手戻りを左右する重要な工程です。
当社の編集工程でやること・御社に確認をお願いすること
当社では、着手前のヒアリングをもとに文体ガイドを作成し、章ごとの生成とその後の通し読みでの統一作業までを編集工程に含めています。見本文章は、御社の既存の広報物や、経営者へのヒアリングで得た話し方をもとに作成します。
御社にお願いするのは、見本文章や呼称の指定が実際の社風と合っているかの確認です。「当社らしい言い方かどうか」という感覚的な判断は、社内の方にしか分かりません。
まとめ
- 章ごとに分けて生成すると、文末・呼称・敬語レベル・用語の言い換えがずれやすくなります。
- 統一すべき4要素を洗い出し、見本文章を含む文体ガイドとして生成前にまとめておきます。
- 表記レベルのズレは検索置換で直せますが、説明の詳しさや話しかけるトーンは通し読みでの調整が必要です。
- ズレの多くは1章ずつでは気づきにくく、通して読んだときに初めて見つかります。
- 見本文章の作成と統一作業は当社の工程、社風との整合の確認は御社にお願いしています。
御社らしい文体をどう見本にするかも含めて、事前にすり合わせながら進められます。