「会社の強みが伝わる本を書いて」とAIに指示しても、当たり障りのない一般論が返ってくることがあります。原因は、AIの能力ではなく指示の情報量にあります。 何をどう書けばよいかが指示文の中で決まっていなければ、AIは無難な内容で埋めるしかありません。
必要なのは、章の狙いと読者像を、AIが判断に使える形の指示文に変換することです。本記事では、指示文に入れるべき要素と、実際の落とし込み方を扱います。
この記事で分かること:
- 「いい本を書いて」で失敗する理由
- 指示文に入れるべき5つの要素と、読者像・章の狙いの落とし込み方
- 出てきた原稿を直す指示の出し方
「いい本を書いて」で失敗する理由
抽象的な指示には、AIが判断材料にできる情報がほとんど含まれていません。「経営者の魅力が伝わるように」「読みやすく」といった言葉は、書き手の頭の中にある基準を指しているだけで、AIには何を指しているか伝わりません。
指示文に欠けていることが多いのは、次の3つです。
- 誰に向けて書くか(読者像が具体的でない)
- 何を伝えれば章の目的が果たせたことになるか(章の狙いが1文になっていない)
- 使ってよい情報の範囲(社内の何を材料にしてよいか示されていない)
この3つが欠けたまま指示すると、AIはどの企業にも当てはまる一般論で埋めるしかなくなります。一般論で埋まった原稿は、指示が抽象的だったことの結果です。
指示文に入れる5つの要素
具体的な原稿を引き出すには、次の5つを指示文に含めます。
| 要素 | 書く内容 | 抜けた場合に起きること |
|---|---|---|
| 読者像 | 想定する読み手の立場・関心・前提知識 | 誰にでも当てはまる一般論になる |
| 章の狙い | この章を読んで読者に何を持ち帰ってほしいか | 話が広がりすぎて焦点が定まらない |
| 使ってよい情報源 | 参照してよい資料・エピソードの範囲 | 資料に無い内容を創作しやすくなる |
| 文体・トーン | 語尾、一人称、話しかける距離感 | 章によって文体がばらつく |
| 避けたい表現 | 使わない言い回し、書いてほしくない切り口 | 意図しない誇張や紋切り型の表現が混ざる |
この5つのうち、読者像と章の狙いがもっとも効果に直結します。 資料や文体は後から補えますが、誰に何を伝えるかが曖昧なままでは、どれだけ資料を足しても焦点は定まりません。
読者像を指示文に落とし込む
「経営者向け」「取引先向け」という立場の指定だけでは、まだ抽象的です。落とし込みの例を、悪い指示と良い指示で比べます。
| 悪い指示 | 良い指示 |
|---|---|
| 「取引先に信頼してもらえるように書いて」 | 「初めて取引を検討している担当者が読む想定で、実績よりも仕事の進め方が具体的に分かるように書く」 |
| 「読みやすく親しみやすい文章で」 | 「専門用語を使う場合は一言で言い換えを添え、一文を60字程度までに収める」 |
| 「会社の強みが伝わるように」 | 「価格ではなく対応スピードで選ばれた理由を、実際にあった対応の場面から説明する」 |
良い指示に共通するのは、読み手が置かれている状況と、何を判断材料にしたいかが具体的なことです。 「信頼してもらう」という目的そのものではなく、その目的を達成するために読者が知りたい情報が何かを言語化しています。
分割して書かせる場合の一貫性の保ち方はAIに章単位で書かせるときの分割方法|長い原稿を破綻させないコツ、事実の扱い方はAI原稿のハルシネーション対策|事実と異なる記述を防ぐ書かせ方の工夫で扱っています。読者像や章立ての土台になる企画の立て方は会社の本のテーマの決め方|読者と目的から企画を固める手順もご覧ください。
章の狙いを1文に凝縮する
章の狙いは、「〜について説明する章」ではなく、**「読者がこの章を読み終えたときに、何を判断・行動できるようになっているか」**という形で1文にします。
- 弱い例:「サービスの特徴について説明する章」
- 強い例:「読者が、他社と比べて何を基準に選べばよいかを判断できるようになる章」
弱い例は「何を書くか」しか示していません。強い例は「読み終えた後の読者の状態」を示しているため、AIはその状態に到達するために何を書けばよいかを逆算しやすくなります。
出てきた原稿を直す指示の出し方
一度で望んだ原稿になることは多くありません。修正指示は、全体を書き直させるのではなく、直したい範囲と、直したい方向を分けて伝えると精度が上がります。
- 直したい範囲を明確にする(「3段落目から最後まで」など)
- 何が問題かを具体的に伝える(「抽象的すぎる」ではなく「実際の場面が書かれていない」)
- どう変えてほしいかの方向を示す(「実際にあった対応の例を1つ入れる」)
「もっと良くして」という指示は、AIにとって次に何をすべきかの手がかりになりません。 問題の所在と直す方向を分けて伝えることが、修正のやり取りを短くする近道です。
良い部分は残す指示も出す
修正指示では、直してほしい箇所だけでなく、そのまま残してほしい箇所も伝えると、意図しない書き換えを防げます。「1〜2段落目はこのまま、3段落目以降を直す」のように範囲を区切ると、良かった部分まで書き直されてしまう事態を避けられます。
全体を渡して「もう一度書いて」と依頼すると、直したい箇所以外まで変わってしまうことがあります。部分修正を重ねるほうが、狙った完成形に近づけやすくなります。
プロンプト作成でつまずきやすい失敗の型
| 失敗の型 | 原因 | 対処 |
|---|---|---|
| 指示が長すぎて要点がぼやける | すべての情報を1つの指示に詰め込んだ | 変わらない情報は別資料にまとめ、指示は狙いと情報源に絞る |
| 修正のたびに文体が変わる | 修正指示に文体の指定を含めていない | 文体ガイドを毎回の指示に添える |
| 読者像が「誰にでも当てはまる」設定になっている | 立場だけを指定し、状況や関心を書いていない | 読者が置かれている具体的な場面を1つ想定して書く |
| 章の狙いが複数詰め込まれている | 1章で伝えたいことを絞り切れていない | 狙いを1文で言えるまで削り、残りは別の章か節に回す |
狙いを複数抱えたまま指示すると、AIはどれを優先すべきか判断できず、結果的にどの要素も浅い説明で終わることがあります。1章1つの狙いを原則にすると、指示文もその後の修正も扱いやすくなります。
指示文だけで完結させようとしない
指示文をどれだけ精密に作っても、それだけで理想の原稿が一度で出てくるとは限りません。指示文は「精度を上げる手段」であって、「確認を省略する手段」ではありません。 生成後に読者像や章の狙いと照らして確認する工程は、指示文の出来にかかわらず必要です。
指示文の設計に時間をかけすぎて、生成と確認のサイクルを回す時間が減ってしまっては本末転倒です。最初の指示は8割の完成度を狙い、残りは生成後の修正で詰めるという配分のほうが、全体として早く仕上がることが多くなります。
当社が設計を担う範囲・御社にお願いすること
当社では、ヒアリングで伺った読者像と章の狙いをもとに指示文を設計し、生成後の修正指示の作成までを編集工程で行っています。
御社にお願いするのは、章の元になる材料の提供と、生成した内容が意図と合っているかの確認です。指示文の技術的な設計は当社が担いますが、「誰にどう届けたいか」という出発点は御社の中にしかありません。
まとめ
- 抽象的な指示は、AIに判断材料を与えないため一般論で埋まった原稿になります。
- 読者像・章の狙い・情報源・文体・避けたい表現の5つを指示文に含めます。
- 読者像は立場だけでなく、置かれている状況と知りたい情報を具体的に書きます。
- 章の狙いは「何を書くか」ではなく「読み終えた読者がどうなっているか」で1文にします。
- 修正指示は、直す範囲・問題点・方向を分けて伝えると精度が上がります。
実際の目次案をもとに、指示文の作り方を一緒に整理することもできます。