「この本の主語は誰なのか」。原稿を読み返して、この違和感に気づくことがあります。社長のメッセージのはずが「当社は」で始まっていたり、会社の歩みを書いた章に「私は」が紛れ込んでいたり。一人称と文体は、本の性格を決めてから選ぶものです。 先に文章を書き始めると、途中で軸がぶれます。

本記事では、社長個人の本と会社としての本で、一人称と敬体・常体の選び方がどう変わるかを整理します。

この記事で分かること:

  • 本の性格によって変わる一人称と文体の選び方
  • 章ごとに文体が割れる典型的な失敗パターン
  • AIへの指示で文体を統一する方法

まず本の性格を決める:社長本か、会社本か

一人称と文体を決める前に、その本が「誰の言葉として読まれるか」を決める必要があります。

本の性格 語り手 想定される本の例
社長個人の本 社長本人 経営哲学、自伝的な一冊、講演をまとめた本
会社としての本 会社(組織) 社史・記念誌、サービス紹介、採用ブランディングの本

この2つは混同されがちですが、読者が受け取る印象はまったく違います。社長個人の本は「この人の考え方を知りたい」という読み方をされ、会社としての本は「この会社がどんな組織か知りたい」という読み方をされます。語り手が揺れると、どちらの読み方も中途半端になります。

一人称の選び方:「私」と「当社」

語り手が決まれば、一人称もほぼ決まります。

  • 社長個人の本 → 「私」を基本にします。 社長の実体験、判断の理由、失敗から学んだことを、本人の言葉として書きます。
  • 会社としての本 → 「当社」「私たち」を基本にします。 個人の体験ではなく、組織としての事実・方針を書きます。

判断が難しいのは、社長の言葉を引用しながら会社の歩みを語る社史のような本です。この場合は、地の文は「当社」、社長本人の発言部分だけを「私」の引用として区別するという書き方が安定します。社史の作り方全体はAIで社史・記念誌を書く|会社の歩みを一冊にまとめる費用と進め方で扱っています。

複数の社員が登場する本の一人称

採用ブランディングの本のように、複数の社員のインタビューを載せる場合は、また別の考え方が必要です。この場合、地の文(会社としての説明部分)は「当社」、各社員の発言部分だけをその人の一人称で載せるのが基本です。社員どうしの発言を並べるときに、全員を「私」で統一すると、誰の発言か読者が追いにくくなるため、発言者名や役職を発言の前後に明記して区別します。

敬体と常体、どちらを選ぶか

敬体(です・ます調)と常体(である調)は、読者に与える印象が異なります。

敬体(です・ます) 常体(である)
印象 語りかけている、親しみやすい 記録的、宣言的、権威がある
向く本 読者に語りかける社長本、採用向けの本 社史・記念誌など記録性を重視する本
注意点 くだけすぎると軽く見えることがある 硬くなりすぎると読みにくくなることがある

迷ったときは敬体を基本にしてください。 常体は記録としての重みが出る一方、読み慣れていない読者には硬く感じられやすい文体です。社史や記念誌のように「公式な記録」としての性格が強い本でのみ、常体を検討します。

常体を選ぶときの注意

常体は、書き手が意図した以上に断定的な印象を読者に与えることがあります。「〜である」という言い切りが続くと、事実の記述と意見の記述の境目が読者から見えにくくなります。常体を選ぶ場合は、事実として確認できていることと、会社としての見解や方針を、段落や表現ではっきり分けて書くことを意識してください。この点は、ファクトチェックの範囲を決める際にも関わってきます。詳しくは出版前のファクトチェックの進め方と会社・編集者の責任分担の決め方をご覧ください。

章によって文体が割れる典型的な失敗

AIに章単位で原稿を書かせると、次のような割れ方がよく起こります。

  • 前半の章は「私」、後半の章になると「当社」に変わっている
  • ある章だけ敬体、別の章だけ常体になっている
  • 同じ人物の呼び方が「社長」「代表」「〇〇氏」で章ごとに違う

これは、章ごとに別のセッションでAIに指示を出し、そのつど「この章の書き方」を個別に説明した場合に起きやすい失敗です。 前の章でどう書いたかをAIが覚えていないまま、次の章の指示だけで書かせると、一人称や語尾がリセットされます。

具体的には、次のような割れ方がよく見つかります。

  • 資料からの引用部分をそのまま貼り付けた結果、その資料の文体(常体の社内文書など)が地の文に混ざる
  • 「〜と考えています」「〜と考える」のように、文末の敬体・常体だけが章の途中で切り替わる
  • 社長を指す言葉が「社長」「代表取締役」「〇〇氏」「私」の間で章ごとに変わり、同一人物と分かりにくくなる

これらは1文だけを見ると誤りに気づきにくく、通しで読んだときに初めて違和感として表面化します。 章を書き終えるたびに、前の章と読み比べる工程を挟むと早い段階で見つけられます。

混在させてよいケースとルール

一人称や文体を1冊の中で完全に統一する必要はありません。ただし、混在させる場合は、切り替える境目をあらかじめ決めておくことが条件です。

混在のパターン 切り替えの境目
社長の巻頭メッセージだけ「私」、本編は「当社」 章の切れ目で明確に分ける
発言の引用部分だけ「私」、地の文は「当社」 引用符やインタビュー形式で区別する
会社紹介は敬体、資料編(年表など)は常体 セクションの種類で分ける

境目が段落の途中や文の途中にあると、読者には統一感のない文章に見えてしまいます。境目は「章」「セクション」の単位で引くのが基本です。

目次に文体の方針を書き添えておく

混在させる本を作る場合は、企画の段階で目次案に「この章は誰の一人称か」「敬体か常体か」を書き添えておくことをおすすめします。執筆が進んでからルールを決め直すと、すでに書いた章をすべて見直す作業が発生します。方針は書き始める前に固め、目次と一緒に関係者で確認しておくことで、後戻りを減らせます。

AIに指示するときに文体を固定する方法

文体の割れを防ぐには、章ごとの指示の前に、本全体に共通する前提を渡す必要があります。

  • 語り手は誰か(社長個人か、会社か)
  • 一人称の表記(「私」「当社」など、揺れを許さない表記を1つに決める)
  • 敬体か常体か
  • 登場人物の呼び方(役職か、氏名か、敬称の有無)

この前提を毎回の指示に含めるか、前の章の原稿を参照させたうえで「この文体を引き継いで書いてください」と指示すると、割れを減らせます。原稿作成の全体の流れはAIで企業出版するには?ChatGPTで会社の本を書く全手順で解説しています。それでも残る揺れは、当社の編集工程で最終的に統一します。

指示文を作るときは、次のような一文をテンプレートとして使い回すと、章をまたいだ揺れを防ぎやすくなります。

  • 「この本の語り手は社長個人です。一人称は『私』に統一し、文体は敬体(です・ます調)で書いてください」
  • 「この本は会社としての記録です。地の文の主語は『当社』とし、文体は常体(である調)で書いてください。社員個人の発言部分だけは、その人の一人称と敬体で書いてください」

このように、語り手・一人称・文体の3点をセットで明示することが、AIに指示を出す際の基本になります。

まとめ

  • 一人称と文体を決める前に、本の語り手が「社長個人」か「会社」かを決めてください。
  • 社長個人の本は「私」、会社としての本は「当社」を基本にします。
  • 迷ったときは敬体を基本にし、記録性の強い本でのみ常体を検討してください。
  • 章ごとに別々にAIへ指示すると、一人称や文体が割れやすくなります。
  • 混在させる場合は、章やセクションの単位で切り替えの境目を決めてください。

本の性格に合った一人称・文体の選び方は、企画の初期段階でご相談いただくとスムーズです。

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