「この原稿の著作権は、書いた本人と会社のどちらのものですか」。会社の本を作る過程で、この質問が出てくることがあります。担当者が書いた原稿なのか、社長個人が書いた原稿なのか、外部のライターやAIが関わった原稿なのかによって、整理の仕方は変わります。

結論から言うと、誰が実際にキーボードを打ったかだけでは決まりません。会社の業務としてどう位置づけられているか、そして契約でどう定めているかが重要です。この整理を後回しにしたまま出版まで進めてしまうと、公表後に権利関係で意見が食い違う原因になります。本記事では、職務著作という考え方に基づき、会社の本の著作権が誰に帰属するかだけを扱います。

この記事で分かること:

  • 「職務著作」という考え方の基本的な位置づけ
  • 執筆者の立場(社員・社長本人・外部ライター・AI)による整理の違い
  • 契約で定めておくべき事項と、よくある行き違いの型

「誰が書いたか」だけでは決まらない

著作権は、原則として実際に創作した人に発生します。ただし、会社の業務として、会社の名前で公表される著作物については、実際に書いた人ではなく会社が著作者として扱われる「職務著作」という考え方があります。

この考え方が実際に当てはまるかどうかは、公表の仕方や雇用契約の内容など、個別の事情によって判断が分かれます。詳しい要件の当てはめは本記事では断定せず、一般的な考え方の紹介にとどめます。心配な点がある場合は、契約書の見直しや専門家への相談を先に行ってください。会社としては、この考え方に当てはまるかどうかを都度判断するより、契約書であらかじめ取り決めておくほうが、結果として確実です。

執筆者の立場によって整理の仕方が変わる

会社の本の著作権を考えるときは、まず「誰が、どんな立場で書いたか」を整理します。

執筆者の立場 一般的な着眼点 確認しておきたいこと
社員(業務として執筆) 会社の業務・指示のもとで書かれ、会社名義で公表される原稿かどうか 就業規則や執筆に関する社内規程に著作権の扱いの定めがあるか
社長・役員本人(個人名で公表) 会社名義ではなく個人名で公表する場合、整理の考え方が変わることがある 会社としての権利を持ちたいかどうかを事前に決めておく
外部ライター・編集者(業務委託) 雇用関係がないため、自動的に会社へ帰属するとは限らない 契約書に著作権の譲渡または利用許諾の条項があるか
AI(生成AIによる執筆) AIが生成した部分の扱いは議論が続いている分野で、断定的な整理は難しい 出版先のプラットフォームが求める申告義務を満たしているか

このうち、特にトラブルになりやすいのは「外部ライターへの委託」と「社長個人名での公表」です。次の章で、契約でどう手当てしておくべきかを整理します。

契約で定めておくべき事項

職務著作の考え方が当てはまるかどうかを都度判断するより、契約書で最初から取り決めておくほうが確実です。会社の本を作る際は、次の点を契約書または合意書に明記しておくことをおすすめします。

確認する事項 明記しておく内容の例
著作権の帰属 完成した原稿の著作権(または利用許諾)が誰に帰属するか
公表名義 会社名義で公表するか、個人名で公表するか
二次利用・改訂の権限 Webサイトへの転載、増刷・改訂の判断を誰が行うか
退職・契約終了後の扱い 執筆者が退職・契約終了した後、原稿をそのまま使い続けられるか

社員が在職中に書いた原稿でも、退職後にどう扱うかまで契約書に明記している会社は多くありません。将来の行き違いを避けるため、退職や契約終了を想定した条項も入れておくと安心です。企画の初期段階でこうした条項の要否を検討しておくと、執筆が進んでからの契約変更を避けられます。

AIが書いた原稿と著作権・申告義務

AIを使って原稿を執筆する場合、生成された文章そのものの著作権をどう考えるかは、議論が続いている分野です。本記事では断定的な整理は避けますが、実務上必ず押さえておくべき点として、出版先のプラットフォームが求める申告義務があります。

Amazon KDPでは、AIで生成した文章・画像・翻訳について、出版時および既存の本を編集して再出版する際に申告が必要とされています。一方、人が作成した内容をAIで改善した「AI支援」は、この申告の対象外とされています。AIをどこまで使ったかによって扱いが変わるため、執筆プロセスの記録を残しておくと、申告の判断に迷いません。

他社の資料を引用する場合の注意

会社の本の中で、他社の調査データや記事を紹介したい場合もあります。この場合は、原稿の著作権とは別に、引用のルールを満たす必要があります。文化庁の資料では、許諾なく引用できる条件として、公表された著作物であること、公正な慣行に合致すること、引用の目的上正当な範囲内であること、そして引用部分が明確に区別され自分の文章が主・引用が従という関係が保たれていることが挙げられています。記事や図表をまるごと転載する行為は、通常この範囲を超えるとされています。他社の資料を使いたい章がある場合は、執筆の早い段階で引用の範囲を意識しておくと、後から書き直す手間を減らせます。

よくある行き違いの型

  • 契約書に著作権の条項がないまま外部ライターに依頼し、後から権利の扱いで意見が食い違う。
  • 社長個人名で出した本について、退職後や役員退任後に会社が自由に増刷・改訂できると思い込んでいた。
  • 社内で複数人が執筆に関わったが、誰がどの部分を書いたかの記録が残っておらず、後から整理できない。

いずれも、公表後に問題が表面化してからでは対応が難しくなります。特に複数人が関わった原稿は、誰がどの章・どの部分を担当したかを進行表やメールで残しておくだけでも、後から権利関係を整理する際の助けになります。企画段階で公表名義と契約内容を決めておくことが、行き違いを防ぐ最も確実な方法です。企画の決め方は会社の本のテーマの決め方、社長個人名で出す場合の考え方はAIで経営者本を書くにまとめています。

当社の場合

当社のAI書籍出版代行で制作した原稿の版権は、著者である御社に帰属します。当社は執筆・編集・デザインの制作を担い、完成した原稿・データの権利は御社にお渡しする、という整理です。契約書の該当条項は、ご発注前にご確認いただけます。AIの活用範囲や執筆の進め方についてはAIを活用した企業出版とは?もご覧ください。

まとめ

  • 著作権は「誰が実際に書いたか」だけでなく、業務としての位置づけと契約内容で決まります。
  • 職務著作という考え方はありますが、当てはまるかは個別の事情によるため断定はできません。
  • 社員・社長本人・外部ライター・AIでは、それぞれ確認すべき着眼点が異なります。
  • 著作権の帰属・公表名義・二次利用の権限・退職後の扱いは、契約書に明記しておきます。
  • 当社が制作した原稿の版権は、著者である御社に帰属します。

著作権の整理に不安がある場合は、契約の内容から一緒に確認しましょう。

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参考情報

  • Amazon KDP コンテンツガイドライン(2026-09-19確認)— AIで生成した文章・画像・翻訳は出版時等に申告が必要。人が作成した内容をAIで改善した「AI支援」は申告の対象外。
  • 文化庁 著作権テキスト(令和6年度版)(2026-09-17確認)— 許諾なく引用するための要件(公表された著作物であること、公正な慣行への合致、正当な範囲内であること、主従関係が保たれていること)。

※本記事は一般的な説明であり、個別の事案についての法的助言ではありません。