社員の声を載せた本を出したあと、その社員が退職することがあります。「掲載を続けてよいのか」「本人から削除してほしいと言われたらどうするのか」。この不安は、証言を載せた会社であれば一度は直面します。

この記事では、法律上の結論ではなく、実務として何を確認し、どう対応を検討すればよいかを整理します。 個人情報保護法や労働関連の法令が具体的にどう適用されるかは、事案ごとの事実関係によって変わるため、法的な判断が必要な場合は弁護士など専門家への相談が前提になります。

この記事で分かること:

  • 取材の時点で同意書に入れておくと、後の対応がしやすくなる項目
  • 退職後に削除を求められたときに、媒体ごとに現実的にできる対応の範囲
  • 当社が対応できる範囲と、専門家への相談が必要な範囲の線引き

掲載を続けてよいかは、まず同意の内容を確認します

退職後の対応を考える前に確認するべきは、取材時にどのような同意を得ていたかです。

  • 掲載する媒体(書籍のみか、Web転載やAmazonの試し読みも含むか)
  • 掲載する期間や範囲についての取り決めがあったか
  • 氏名・役職・顔写真を出す前提だったか、匿名前提だったか
  • 同意を撤回したい場合の連絡先や手順を伝えていたか

これらが書面やメールなど、後から確認できる形で残っているかどうかで、対応の進めやすさが大きく変わります。口頭だけの確認だと、退職後にトラブルになったとき、双方の認識をすり合わせる手がかりがなくなります。

すでに刊行済みの本で、当時の同意の記録が残っていない場合もあります。その場合は、今から新たに記録を作ることはできないため、取材時の担当者の記憶、当時のメールのやり取り、取材の企画書など、確認できる材料をできる範囲で洗い出すところから始めます。何も残っていない場合は、本人に改めて掲載継続の意思を確認することも選択肢になります。

同意書に書いておくべきこと(取材時点で)

これから取材・証言収録を行う場合は、次の項目を同意書やメールに残しておくことをおすすめします。

項目 内容の例
掲載する媒体 書籍(紙・電子)、自社サイトへの転載の有無など
表示する情報 氏名・役職・顔写真の掲載可否、匿名にする場合の表現方法
掲載期間の考え方 書籍という性質上、増刷・改訂のたびに内容が残る可能性がある旨
退職後の扱い 退職によって自動的に削除されるものではない旨、削除を希望する場合の連絡先
撤回の連絡方法 誰に、どのような方法で連絡すればよいか

「退職後の扱い」をあらかじめ書面に入れておくことが、後の対応を最も左右します。 ここが未記載のまま取材を進めている本は少なくありません。

匿名化を前提にする場合の書き方

実名を出さず、部署や年代などの属性だけで紹介する形にする方法もあります。この場合でも、「特定の個人だと分かる情報をどこまで残すか」を事前に決めておく必要があります。エピソードの内容が特徴的だと、部署や在籍時期を伏せても、社内の人には誰の話か分かってしまうことがあるためです。匿名化は「名前を出さないこと」だけでなく、「エピソードから本人が特定されないこと」まで含めて考えます。

退職は同意を自動的に無効にする出来事ではありません

在職中に得た同意が、退職という事実だけで自動的に無効になるとは限りません。ただし、次のような事情があると、対応の検討が必要になります。

  • 退職の経緯(円満退職か、そうでないか)
  • 同意した時点の説明内容と、実際の掲載内容にずれがないか
  • 本人から明確な削除・訂正の申し出があったか

これらの評価は事案ごとの事実関係によって変わるため、当社では法的な判断を行っていません。 申し出があった場合は、まず同意書や取材時のやり取りを確認し、必要に応じて弁護士など専門家に相談することをおすすめします。

削除を求められたときの現実的な対応範囲

法的な判断とは別に、技術的・物理的にどこまで対応できるかという現実的な制約があります。媒体によって対応できる範囲が異なります。

媒体 削除・修正の現実的な対応
電子書籍(次回配信分) 改訂データを作り直せば、以降のダウンロード・購入分には反映できる
電子書籍(すでに購入済みの読者の端末) ストア側の仕組みに依存し、当社側で個別に回収することはできない
紙の本(増刷前) 増刷のタイミングで原稿を修正できる
紙の本(すでに配布・販売済みの分) 個々の読者や書店から回収することは現実的に困難

すでに配布された紙の本を物理的に回収することは、現実的にはほぼできません。 対応を検討する際は、「これから作る分にどう反映するか」を軸に考える必要があります。

対応の判断軸

申し出を受けたときに整理すべき軸は、次のとおりです。

確認する軸 確認する内容
同意書の有無 取材時にどのような同意を、どの範囲で得ていたか
申し出の内容 完全な削除を求めているか、氏名の匿名化など部分的な修正で足りるか
対象の媒体 電子書籍・紙の本・自社サイトなど、どこに掲載されているか
対応できるタイミング 増刷や改訂のタイミングまで待てるか、緊急性があるか

このうち「申し出の内容」は、完全な削除ではなく、氏名を伏せる・役職名だけにする・エピソードの一部を削るといった部分的な対応で解決できることもあります。本人の意向を確認せずに全部削除か全部維持かの二択で考えないことが、話し合いを進めやすくします。

対応の連絡は、担当者1人が単独で判断せず、社内の窓口(総務・人事・経営層など)を決めたうえで進めることをおすすめします。窓口が定まっていないと、本人への回答が二転三転し、かえって話がこじれることがあります。

当社が引き受ける範囲と、御社にお願いする範囲

証言の扱いをめぐる申し出があった場合、当社と御社の役割は次のように分かれます。

  • 当社が引き受ける範囲:原稿の修正、改訂版データの作成、電子書籍・印刷データの差し替え対応
  • 御社にお願いする範囲:同意書の内容確認、本人との連絡・交渉、法的な対応方針の判断(必要に応じて弁護士等への相談)

当社は編集・制作の実務を担いますが、同意の有効性や削除要求への法的な対応方針を判断する立場にはありません。 申し出の内容が複雑な場合や、本人との話し合いがまとまらない場合は、早い段階で人事労務や個人情報の扱いに詳しい弁護士に相談することをおすすめします。専門家への相談を後回しにするほど、対応の選択肢が狭まることがあります。この点は、AIで社史・記念誌を書く|会社の歩みを一冊にまとめる費用と進め方AIで書く採用ブランディングの一冊|候補者に伝わる会社の本の作り方のように、社員の証言を多く扱う本の企画段階から意識しておくと、後の対応がスムーズになります。電子書籍としての改訂のしやすさはAIで書くkindle出版|法人が会社の本をAmazonで出版する手順もあわせてご確認ください。

まとめ

  • 退職後の対応は、まず取材時にどのような同意を得ていたかの確認から始めます。
  • 掲載媒体・表示情報・退職後の扱い・撤回の連絡方法は、取材の時点で書面に残しておくと後の対応がしやすくなります。
  • 退職という事実だけで同意が自動的に無効になるとは限らず、事案ごとの判断が必要です。
  • すでに配布・販売された紙の本を回収することは現実的に困難です。対応はこれから作る分への反映が中心になります。
  • 同意の有効性や法的な対応方針は、当社では判断できません。必要に応じて弁護士など専門家にご相談ください。

証言を含む本を企画する段階から、同意の取り方について一緒に整理することもできます。

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※本記事は一般的な説明であり、個別の事案についての法的助言ではありません。